激しく、速やかな死
激しく、速やかな死 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
佐藤亜紀の書く作品は、いずれもいわば西洋版稗史小説といった手法と趣きなのだが、やはり長編においてこそ、その本領を遺憾なく発揮できるようだ。本編は、フランス革命期に材をとったものを中心に7つの短篇を配している。いずれも物語に核心はあるものの、この作家のもっとも得意とする、一見したところでは無駄に見える、周縁の表現に乏しいのだ。「本質は細部に宿る」ことこそが、佐藤亜紀の小説を読む醍醐味である。表題作、あるいは巻頭の「弁明」あたりを核としつつ、想像を膨らませた長編小説とした方がよかったのではないかと思われる。
2014/05/04
syaori
フランス革命前後の時代を舞台にした短編集。サド侯爵が語り手の『弁明』から始まり、年代順に並んでいる印象です。『荒地』などの暗い哄笑が響いてくるような作品もよかったですが、夫の代わりにパリで外交するメッテルニヒ夫人を描く『金の象眼のある白檀の小箱』や熊ミーシカの視点で「戦争と平和」を語り直す『アナトーリとぼく』が軽やかで皮肉が効いていて好き。最後のボードレールが語り手の『漂着物』は、ほかより少し時代が下っているのですが、オスマンの改造でこれまでのパリが消えていく寂しさが最後にふさわしかったかなと思います。
2017/06/13
kochi
官憲に追われるサド侯爵、その時を待つロベスピエールの犠牲者達、新大陸の悲しきタレイラン、神がかりの暗殺未遂犯、たいそういじわるなメッテルニヒ夫人、クマのミーシカ、そしてボードレール・・・彼らが生き生きと動きまわるシーンが、切り取られて面前に提示される。クマのミーシカの登場する「アナトーリとぼく」は、ほとんど全編、ひらがなとカタカナよりなる。これが、名前だけなら誰もが知っている世界的大作の翻案だったとは。手探りで進むしかないときのこの感覚を覚えておきたいものだ。
2012/05/15
ごはん
死の瞬間、何を思い、何を感じるのか。自分が自分でなくなるその死の瞬間、生を失った肉体はただの塊と成り果てる。漠然とした死への恐怖に叫び声をあげ、自分以外の死の瞬間に、生と死の境を感触や嗅覚で知る。誰もが生まれた瞬間からそうなる運命だとわかっていても、言葉にならない恐怖を感じずにはいられない。追い払うことのできない死への恐怖。どんなに避けても、やがてそれは訪れる。表題作「激しく、速やかな死」に、逃げきれない現実を突き付けられて苦しくなる。解題を読んで、もっと知識を増やしてから再読します。
2009/07/11
ホレイシア
もったいなくて少しずつ楽しんでいたのだが、遂に読み切ってしまった。大満足、もうこれは相性がいいというよりないだろう。特に「荒地」は、衆議院無意味解散の直後に読むと、妙に可笑しいような情けなくなるようなタレイランのセリフがあり、秀逸。あと、メッテルニヒの奥様は最高だ。やっぱり破棄されたという回想録が返す返すも残念で成らない。読みたかったなー。
2009/07/22
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