夜の隅のアトリエ
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夜の隅のアトリエ / 感想・レビュー
南雲吾朗
意識はしなくとも普通は、しがみ付いて決して離さない現実というモノの中に生きる。離してしまえば根幹が崩れて存在が希薄になる。この本の様に生活する事は、私にはできない。歳を取りすぎてしまったからなのだろう…。全体的に、モノクロームな文章で綴られている。こういう作品、結構好きだ。
2023/06/28
野のこ
淡々とした文章で主人公が何を考えて行動しているのか分からなかった。自分のことなのに放棄している感じが違和感。名前を変えあてのない日々。ただちょっとした行動や言葉から感情が見え隠れするので引き込まれる。「黒っぽい空からわさわさと降る雪は敵意を持ち叩きつける様子は雪の底に埋葬されそうに感じた」とか富山県の冬の情景をひしひし感じながら。また孤独な旅は続く。とろろ昆布をいれたおでんに興味津々。
2017/11/14
タピオカ
初めての作者さん。偶然出会った同じ年頃の人の保険証を盗み、見知らぬ田舎町へ行き別人として暮らす。追われる人のようにそれを繰り返す。まるで自分のことのようにたびたび思わせる何かがありぞわぞわした。今を捨てて軽くなるのもいいかなぁと一瞬思って慌てた。
2021/10/14
なゆ
失踪したい…とまではいかなくても、知らない街に行って別人として生きたい、みたいなことはふと考えたことがあるけれど…。本当にこんな風に、人の名前を使って別人のように生きていけるのだろうか。読みながらも「どうしてそこまでしなくては…」と思っていたが、ある事に巻き込まれてしまって本当の理由がわかる。とても寒い街の寂しい話だけに、心にしんしんと雪が積もるよう。何も残さず、転々と流れ続けなくてはいけない人生を生きるなんて、私には無理だと確信した。
2013/01/14
ハルト
ひとりの女性のあてどもなさが、夜降る雪のしんしんとした静けさのように降りつもり寂寞としている。どこに行くのか、どこに行こうとしているのか。行こうとしているのにどこにも行けない、誰にもなれないことへの孤独や寂しさや虚無感。それが水のように流れ生きていく、定住安定への執着のなさ、死の薄い膜をかぶったような彼女のどこかぼやけた不透明さに繋がるのかなと。彼女にとって〈自分〉とはなんなのか。生きるとはなんなのか。波紋のように哀しみが胸に広がる作品でした。
2013/02/27
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