ターミナルタウン
ターミナルタウン / 感想・レビュー
藤枝梅安
「名前」と「存在」を深く掘り下げる、この作者ならではの世界。日本各地に残る、かつての「町おこしブーム」の箱モノの遺骸を思い出させるような、「ターミナルの町」。「ニュータウン」という名の住宅地のただ一人の住人は「影を失った人間」。ないのにあることになっている「タワー」。工場で生産される「トンネル」に押されて下火になった、「隧道」を育てる「隧道士」。都市開発で儲けようとする都会の「接続会社(コネクション)からこの街を守ろうとする人々の連帯を描く異色作。難しいけど魅かれるものがある。
2014/11/06
kishikan
三崎さんの小説は、コロヨシを除いて「まち」が基本的なテーマになっているような気がする。まちといっても、街並みのようなハードの街ではなく、そこに人が住まい、生活して、誰かと関係を持つそうした人々の暮らしとしての町だ。この全ての人に身近な存在であるはずのまちに、三崎さんはSF的(科学的とはいえないけど)空想の事象を重ね合わせて、我々の町に潜む様々な問題を浮き彫りにする。今回のターミナルタウンもそうだ。町の成長という人々の欲望とそれが弾けた姿をさらけ出し、そこから立ち上がる市民の姿を描く。ウ~ン分権的でいいね。
2014/10/28
ちはや@灯れ松明の火
栄枯盛衰の果てに迎え入れる列車を失えども、ターミナル駅はただ其処に在り続ける。シャッター商店街、無人のニュータウン、東西に分断された駅、止まらぬ町の壊死の進行。不可視のシンボルタワー、消失した列車の淡い光、打ち棄てられた隧道の墓場、存在しないものが持つ存在意義。取り残された町にも風は吹き込んでくる。雲を払い、時に嵐を伴って。影を失った者、光を求めた者、闇を育む者、道を拓く者、其々の思惑のレールが交わるコンコース。人が道に想いを刻みながら歩き続けるように、列車もまた、線路に記憶を刻みながら走り続けていく。
2014/05/19
つくよみ
★★☆ かつて、鉄道のターミナル駅として栄え、その鉄道に見捨てられる形で衰退した町を舞台に「ありもしないタワー」の存在を巡って、政争劇が繰り広げられるお話。影分離者、451列車の光、隧道師、町崩し、鉄道原理主義者・・・幻想的だが、何処と無く現実味すら帯びた設定が、現世界とは似て非なる世界で、物語に奥行きを与えつつ、読者の好奇心を刺激する。これぞ、まさに「三崎ワールド」。町と共に生きる者、町に辿り付く者、やがて町を去る者・・・「ターミナルタウン」を象徴するような人間ドラマも、読後感に余韻を与えている作品。
2014/04/29
けい
鉄道の主要駅から外れてしまった駅の寂れや変化、そこに住まう人々を描く物語。長編ならではのひたすら壁を塗り重ねて行くように、読み進める毎に確実はまって行く世界観。とんでもない設定の職業やありえない国々の設定も、現実の歴史と巧妙にオーバーラップさせて、さもあるかの様な勘違いを読み手に与えてくれます。他作品とも世界観を繋げながら展開されるストーリー、三崎ワールドにどっぷりひたれる作品でした。
2014/02/14
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