春の庭
春の庭 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
この小説で一番問題となるのは、視点が唐突に姉に移ることだろう。この手法については批評家たちの間でも様々な見解があるだろうが、虚心に読むならば、そのことによって得られるものはないとしか思えない。また、そもそも姉がここで登場する必然性も乏しいだろう。高級住宅が点在する中に取り残された安アパート。そこに住む太郎、西さん、巳さんのそれぞれの関係性は希薄だ。ゆるやかで、まさにそれが都会だとは言えるのだが。一方、表題となった「春の庭」も小説の中でシンボルとして機能しているわけでもない。読者の共感を得にくい小説だろう。
2015/10/02
遥かなる想い
第151回(2014年)芥川賞受賞作。 何気なく見過ごす日常の 風景を淡々と描く文体が よい。同じアパートに 住む太郎と西さん…そして 水色の家。 毎日暮らす場所にある ちょっとした楽しみ。 読んでいると静かに本で 描かれる風景が入り込んで きて、心落ち着く感じが する。 シーンのあちこちに 色彩が感じられ、一緒に 他人の家を覗いている ような疑似体験ができる。 終盤の「わたし」への 語り手交替は突然で、 不気味だった。
2014/11/30
zero1
この作家は文章を用いて読者に映像を見せることができる。当たり前のようでいてこれができる表現者は少ない。取り壊しが決まったアパートで独居生活の太郎はバツイチ。女性作家らしく男は妙にサラサラしている。二階に住む女が水色の隣家を覗いているのが見えた。その家は写真集「春の庭」になっていた。日常の中にあるものを的確に切り取って表現する。それは夫婦が離婚した後でも残る。151回芥川賞受賞作。静かな中に不穏、不気味さがあると選考委員たちが認めた。これから読む方はどうか急がず、情景を思い浮かべてほしい。
2019/07/17
kaizen@名古屋de朝活読書会
芥川賞】柴崎友香「春の庭」「ままかりの味醂干し」「エゴノネコアシフシ」知らないものが出てくる。「東京って大自然ですよね」面白い視点がでてくる。話は淡々と進み、日常と非日常が入り交じってもなおかつ淡々と進む。仕事場の沼津、近所の西さん、写真集「春の庭」の舞台に引っ越してきた森尾さん。途中で名古屋が出てくるけど必然性と背景が不明。要調査項目として記録。
2014/08/25
風眠
世田谷にある取り壊し寸前のアパートから始まる、虫、葉っぱ、路地。そしてベランダから眺める町の風景、空、営み、隣の部屋に住む女が塀を乗り越えようとしているところへと、カメラが切り変わるように次々とフォーカスが合っていく。変わらないもの、変わらないからこそ憧れる。焦がれるほどにその細部まで確かめてみたい。その象徴のようにそこに在る洋館。何気ない日常風景も、ある一点を見つめるのか、全体を俯瞰して眺めるのかで、見え方が変わってくるものなんだなとあらためて気付かされる。一冊の写真集がきっかけで日常が冒険になる物語。
2014/09/03
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