水声
水声 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
川上弘美さんは様々な小説のスタイルを持った人だ。今回は実にシリアスなリアリズム小説。しかも、行き着くところを閉ざされた近親相姦をテーマに描く。謂わば自己完結するしかない、他者から見れば不毛の恋愛文学にあえて挑んだ。そこには他者の介入の余地がないだけに、読者からの共感も得にくいだろうと思われる。しかし、原点に立ち返って、愛するとは何だろうとの根源的な問いを突き詰めようとしたのが今回の試みだった。時間軸の錯綜は、迷いではない。都の陵への一途な想いの循環と変奏なのだ。水声は限りなく哀切で、モノトーンの美しさだ。
2014/10/29
風眠
重く濁った水のような、けれど、切られるように冷たく澄み切った水が流れてゆくような物語。父と母だと思っていた二人の関係は、実は兄妹で、父親は別にいるらしいということ。当たり前と思っていたことが、当たり前ではなかった。そして都と陵、姉と弟が関係をもつ。常識的に考えると許されないこと。けれど許すとか許さないとか、何を基準に誰が決めるのだろう。内容的にはかなりな衝撃作だけれど、作家の冷静というよりは冷徹な文章によって、「清」と「濁」が絶妙なバランスで描かれ、「許されない愛」の甘美さが物語の中で美しく昇華していく。
2014/12/06
nico🐬波待ち中
50代の姉弟、都と陵。互いが「もう一人の自分」のような存在の二人。それは好きとか恋とか簡単に言い表すことの出来ない感情。胸が締め付けられる想い。水のように形がはっきり定まらず、ふわりふわり静かに流されていく。互いに距離を持とうと離れた時期もあったけれど、やはり離れられない二人は家族とか恋人等の枠に囚われない生き方を選ぶ。例え他人に咎められようとも、隣で生きていきたい、ただその想いのみ。とても穏やかで、けれどとても情熱的で狂おしい物語だった。
2018/06/20
kazi
川上弘美先生が私の中で静かな熱狂を引き起こしています。澄んだ言葉たち。夢と現実、過去と現在が入り混じる語りの流れ。長い詩を詠じているかのような、心地よいリズム。全てが素晴らしい。これは魅力的だった“ママ”という人物を中心に語られる家族の物語でもあり、語り手の“都”という女性の愛と性の物語でもあり。“普通ではない”恋愛を書いているのだが、決して突き放さないし、わざとらしく肯定もしない。この広い広い世界で普通なことなんて何もない。それぞれがそれぞれの個としてあればそれで良い。自然とそんなふうに感じられる。
2024/03/25
優希
「みずごえ」だと思っていたら「すいせい」だったのですね。過去と現在を行き来しながら、その狭間で揺蕩う不穏さがあります。不思議な家族が浮き彫りになりながら、禁忌の関係が描かれていく。甘美さを内包しながら、静かに淡々と話は進んでいきます。濁音の似合わない世界はゆっくりと流れ、繊細で丁寧な言葉の数々が心に沁み込んできました。姉と弟が不思議に愛し合い、寄り添っていく感覚が背徳的でありながら心地よい水の中で揺蕩っているような感覚にさせられます。
2015/04/29
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