スクラップ・アンド・ビルド
スクラップ・アンド・ビルド / 感想・レビュー
ヴェネツィア
読了後に、そこはかとない寂寥感を残す小説だ。作品のキー・コードは、確かに著者自身が「受賞のことば」で語っていたように「身体性」にあるだろう。身体中のどこもが、もう思うようには動かなくなった祖父。その一方の対局には、日々身体に負荷をかけ、自らの筋肉と身体的な精神性とを鍛錬する孫の健斗がいる。ことあるごとに「死にたか」を連発し、特養ホームへ送られようとしている祖父には当然未来はない。そして、若く洋々とした将来が開けているべきはずの健斗にも、私たちはそれほど明るい展望を抱くことができない。⇨
2015/09/30
starbro
「火花」は受賞決定前に読んでいたので、今回は同時受賞の「スクラップ・アンド・ビルド」、羽田圭介初読です。掲載誌か単行本のどちらで読むかを考え、やっぱり単行本を選択しました。尊厳死、養老介護等暗く重たいテーマですが、主人公の軽妙な語り口で一気に読めました。これからの超高齢化社会を深く考えさせる作品ですが、ニートながら極めてポジティブな主人公の存在で少しは明るい未来を感じさせます。「火花」よりも本作の方が芥川賞っぽいかな?次回作にも期待です。
2015/09/06
遥かなる想い
2015年芥川賞受賞。 現代に生きる人々の閉塞感 のようなものを健斗と その祖父の交流を通して 描く。 要介護の老人と無職の孫の 組合せは現代そのもので あり、物語の展開が ひどく身近に感じる。 高齢化が加速する日本で 後期高齢者を巡る問題を 著者は健斗の眼を通して 軽やかに描くのだが… 健斗と亜美の関わりも 今の時代なのだろうか…ひどく 乾いた関係が印象的な 本だった。
2015/12/05
zero1
誰がスクラップで何がビルドなのか?「死にたい」と漏らす87歳の祖父。一緒に暮らす28歳の健斗は再就職のため面接と資格試験のための勉強をしていた。「祖父の願い」をかなえるため、健斗は手厚い介護をする。ユーモアだと感想を持つ人が多いが、私は介護の現実を考え、少しも笑えなかった。そればかりか本当は死ぬ気などなく生にしがみつく狡い祖父のことが悲しく感じられた。「火花」(又吉)と第153回芥川賞ダブル受賞。読んでいて思い出したのが「七十歳死亡法案、可決」(垣谷美雨)。私もあなたも健斗で祖父だ。
2019/04/21
morinokazedayori
★★★全編を通して、言いようのない閉塞感とやるせなさに満ち満ちていて、読んでいる間中、気が滅入った。被介護者と介護する家族それぞれの心の闇が痛いほど分かり、突き刺さる。年齢を重ね、たとえ身体の一部の機能が衰えても、前向きに日々成長し続け若い人への手本として、自分は生きることができるだろうか。家族が要介護となったときに、常に穏やかな心で接することができるだろうか。普段目を背けている現実を突きつけられた感じだ。自分のためにも家族のためにも、生きている限りは心身健康であるよう心がけたい。
2016/02/22
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