浮遊霊ブラジル
浮遊霊ブラジル / 感想・レビュー
ヴェネツィア
タイトルに激しく魅かれて。長編だとばかり思いこんでいたが、表題作を含む7つの作品からなる短篇集。津村記久子は12冊目だが、これまでに彼女の作品に抱いていた、焦点をわずかに、しかも実に巧みにズラせたリアリズム小説といったイメージからは大きく逸脱するものだった。7篇のいずれもが多かれ少なかれそうなのだが、とりわけ表題作のぶっ飛びかたには驚かされた。書かれた順の編成だが、そうすると、作家はこの地点に向かって着々と変貌を準備していたかのようである。この前後の作品もぜひ読んでみようと思う。
2019/12/22
おしゃべりメガネ
芥川賞作家津村さんの短編集です。う〜ん、正直本作は好みがはっきりと別れる内容でした。作品全体的にちょっとつかみどころのない感じで、そのフワッとした作風が津村さんの魅力でもあるのですが、今作はちょっと入り込めなかったです。でも『地獄』あたりのユーモアはやっぱり津村さんじゃないと書けない作風だなぁと。短編、それぞれがまさしくタイトルどおり浮遊しているかのようで、ぼやけたまま読了してしまいました。津村さんのファンタジー要素もなくはないですが、やっぱり津村さんには日常のなんてことないひとコマを書いてほしいですね。
2017/05/07
酔拳
7編の短編が収録されている。「給水塔と亀」「地獄」「運命」が特に印象に残った。「給水塔と亀」は定年退職した独り身の男性が生まれ育った町に帰って第2の人生を始める話。小説の終わりぐらいに、アパートでビールを飲みながら水ナスを齧るところが、哀愁漂い、よかった。「地獄」は地獄に堕ちた二人の女性の話。地獄を、津村さんのユーモアを交えて書いてあり、おもしろかった。「運命」は、最後の方の節で、受精の様子が書かれていて、その描写がすばらしかった。
2021/02/26
なゆ
ああ、このしみじみと味わえる面白さは流石としか言えぬ!七つの短編どれもよくて、こりゃ津村さんますます進化しているのかも。おっさんでもじいさんでも、あの世の霊でも鬼でも、穏やかでどっか不器用そうで飄々としてて。中でも楽しめたのは『地獄』。まー面白い地獄を思いつくもんだ。それでいての人間模様ならぬ鬼模様。のむのむとかよちゃんだから、こんなに楽しそうに見えるのか?『アイトール・ベラスコの…』も、話は意外な方向に展開して、いじめっ子の連鎖みたいのを感じる。男子ニブすぎっ。『浮遊霊ブラジル』は終わり方がたまらん。
2017/01/02
めろんラブ
私は「小さな話」が好きだ。市井の人を丹念に描いたものには、人間のどうしようもなさと、だからこその愛着があるから。登場人物が心の住人になり、孤独の友となるから。さて、津村さんの最新作である本書、これまた心の住人候補が豊作でニマニマが止まらない。皆、突出した個性があるわけではなく、どちらかと言えば地味である。それでも、その存在が愛おしい。それは彼・彼女に兆すほんの少しの温もりに、生きる価値があるかもしれないこの世を見たからかもしれない。しんどさに寄り添いつつニッチなユーモアも冴えて、こういう本はホント有難い。
2017/03/31
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