壁の男
壁の男 / 感想・レビュー
ミカママ
見るからに面白みのないタイトルにおじけづいて(笑)、早々と手に入れていたのに、今日までほったらかしていた自分を責めてやりたい。これはまさに、殺人事件のない良質のミステリー。3歳の女の子の闘病シーンは、ひとの親ならずとも歯を食いしばり、自らの拳を握りしめることだろう。好むと好まざるとにかかわらず、胸をギュッと鷲掴みにされる。
2019/03/17
starbro
貫井徳郎は、新作中心に読んでいる作家です。本作は、著者のいつものミステリではなく、広義のラブ・ストーリーでした。テイストとしては天童荒太の直木賞受賞作『悼む人』に近いものを感じました。特に第二章には、癌経験者ということもあり、泣かされました。私の壁の絵のイメージは、ジョアン・ミロでしたが、皆様はいかがでしたでしょうか?今年のBEST20候補、貫井徳郎のここ数年のMyBESTです。本作で直木賞受賞でも良いかも知れません。
2016/11/25
サム・ミイラ
人が生きてゆく事はとてもとても大変な事です。楽しい事も悲しい事も時に信じられぬほど残酷な事も起こります。人はそれでもその理不尽さを受け入れ悲しみを胸にしまい生きてゆく。平凡で普通に見える人達も実はその人にしか分からない壮絶な思いをしてきたのだと理解出来るようになりました。人は微笑み耐える。そして彼は壁に絵を描き続ける。喜びも悲しみも一身に背負って。私はこの本から「それでも生きる力」を貰いました。それが残された者の使命であるなら。私も心の絵を描き続けていきます。
2018/02/09
しんたろー
まず始めに、貫井さんの新境地と言える・・・「彼はなぜ、絵を描き続けたのか?」と いう帯文の通りの謎がミステリ要素だが、これまでは随所に描かれていた「人心の 闇」は希薄で、情愛に溢れた男の半生に惹き込まれる。一見は凡庸そうな中年男 のとても切ない人生に同化するように共感してしまう。また構成が見事なのも職人 技のようで唸らされた。心理描写の上手さと飽きさせない展開で、余韻が消えない 終わり方にも拍手!小児を育てている人はハンカチが手離せない筈なので外出時 は要注意だと思うし、今年のマイベスト10候補の一作だ。
2017/03/24
NADIA
栃木県に、最近静かな話題になっている多くの個人宅の外壁に絵が描かれている町がある。芸術性が高い絵ならばともかく、稚拙と言った方が妥当なこのような絵をわざわざ自宅の外壁に書かせている理由は?? 一人のノンフィクションライターがこの現象の謎を突き止めるために取材に向かう。絵を描いている男の過去が少しずつ明らかになり、終盤ではこの男の人生に引き込まれ、絵の巧拙など問題ではないと思わされる。私もこの町に行き、その独特の雰囲気に浸ってみたい。
2017/07/18
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