ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話
ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話 / 感想・レビュー
starbro
上橋菜穂子は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。著者と津田篤太郎医師との対談集だとばかり思っていたら、往復書簡でした。内容は、気軽な手紙のやりとりではなく、生と性、死、進化、多様性、AI等、重く深いものでした。著者がこうしたテーマを常に考えているので、壮大な物語が降りてくるのかも知れません。本書の挿絵も著者が描いています。文才だけでなく、画才もあるんですね。
2017/12/10
ちゃちゃ
人は何のために生まれ、生き、死ぬのか。作品冒頭で蓑虫の雌の儚い命を挙げて深く自問する上橋氏。最愛のお母様を看取り、自らも更年期を迎えて心身の変調に見舞われる日々。この世に生を享けた私たちは、次世代に命を渡すために「生きなければならない」。けれど、そのためには「永遠に生きてはいけない」。滅びのスイッチを内包した生というものを、私たちはどう受けとめるのか。機械によって代替されない人間の特質は、死ぬこと、滅びること、その脆弱性にあるとする津田氏の指摘に、有限の命であるからこそ輝く生の尊さを思い、深く納得した。
2019/09/26
naoっぴ
作家であり文化人類学者の上橋菜穂子さんと医学博士津田篤太郎氏という、畑の違うお二人による生命をテーマにした往復書簡。聞いただけでも面白そうですが期待以上でした。話は蓑虫の一生からA Iの可能性までと幅広く、生命学から哲学、芸術にまで広がる興味深い内容に好奇心は膨らんで気づけば付箋でいっぱいです。生があるから死があり、その逆もまた然り。視点をくるくると変化させ「生」と「死」について語るお二人に、読んでいる私はどこか知らない世界へ連れて行ってもらった気分です。良い本でした。
2018/09/11
ひめありす@灯れ松明の火
作家である彼女と、医師である彼。研究してきた物も、生い立ちも、まるで違うはずなのに。二人の往復書簡はどちらの手によって綴られたのか解らない程、酷く温度が似ていた。普段違う死を見つめて生きる二人が、偶さか一つの死を真ん中に挟んで向き合った。その奇跡。暗く深く静かでとても冷たい温度。星を抱く海の温度。死にそうな程ではない。でも死に向かいつつある冷たさだ。生を繋ぐ。ただそれだけの為に私達生まれてきた訳じゃない。私達はテロメアの上に物語を乗せている。それを交換しながら、生と死を行き来しながら、物語を紡ぎ続けていく
2018/02/28
アルピニア
上橋菜穂子氏(作家)と津田篤太郎氏(医師)の往復書簡。生物の身体のシステムは、驚くべき精密さで命を支え、そして個体の命を終えるように構築されている。生き物としての人は遺伝子を伝える乗り物に過ぎないのかもしれない。しかし人は「何のために生きるのか?」と問わずにはいられない。お二人の話題はこの問いに向き合いながら、生物の生存戦略、認識論、終末医療、進化、AIやVRに及ぶ。読後、書名の持つ深い意味に気づく。始まりと終わりのある私の人生の物語を他者と共鳴しながら紡ぎ、静かに穏やかに終えたい。→
2018/11/21
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