星落ちて、なお
星落ちて、なお / 感想・レビュー
鉄之助
幕末から明治にかけて活躍し「画鬼」と言われた、天才絵師・河鍋暁斎が亡くなるところから物語は始まった。まさに「星落ちて」だ。タイトルの読点「、」が効いている。その娘・とよ の偉大な父への愛憎が、読んでいてリアルに迫ってきた。維新後、「古臭い」とされ売れなくなった狩野派の画風になぜこだわったのか? 時代遅れといわれても、なお、描き続ける、その姿に共感。「狩野派の絵とは、本邦のあらゆる絵の源泉なのだ」。この言葉が、読み終わってもなお、私の心に響いている。
2024/11/19
starbro
第165回直木三十五賞受賞作&候補作第三弾(3/5)は、受賞作二作目です。澤田瞳子は、新作中心に読んでいる作家です。 本書は、明治~大正期を生きた天才絵師の娘の数奇な物語、著者安定の作品ではありますが、単体で直木賞というよりも、5作ノミネート合わせ技、一本といった感じでした。 https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163913650
2021/07/28
パトラッシュ
読了後間もなく直木賞決定の報を聞いた。候補5度目での受賞だが、その文章力と描写力はとっくに選ばれていても不思議はなかった。画鬼と呼ばれた父河鍋暁斎の影に死後も翻弄される娘の暁翠を描いた受賞作に、母と同じ時代小説作家の道を選んだ作者の思いが重なる。父だけでなく才能豊かな兄の大きな存在に圧迫されながら、女性差別が当たり前だった明治大正期に「自分には絵の道しかない」と画道に食らいつく姿は、どれだけ苦しくても信じた道を行く女の覚悟が鮮やかだ。暁翠が他人を気にせず己の道を見出したラストは、しみじみ深い余韻がにじむ。
2021/07/14
射手座の天使あきちゃん
偉大な師であり父である河鍋暁斎より暁翠の名を与えられた娘・とよ どんな注文にも天才的な筆さばきで次々と作品を生み出す父・暁斎や兄・暁雲(周三郎)に激しく嫉妬しながらも憧れを抱き苦悶するとよの生涯を端正な文章で綴った一代記です。 久し振りに時の経つのを忘れて読みふけった直木賞作品でした。 (^_^)v
2022/02/11
旅するランナー
「父と自分や周三郎は、赤い血ではなく、一滴の墨、一本の筆で互いを結び合わせていたのかもしれない」 鬼才絵師河鍋暁斎の娘とよ(暁翠)の人生。父の死後も、その偉大な功績が影のごとく付いて回り、悩み苦しむ。兄弟縁者との軋轢も悩みの種。明治・大正という激動の時代を、絵画への強い信念を持ち続け、力強く生きた女性の生き様が、とても潔い。読み終えて、なお、背筋をすっと伸ばしてしまう、ひた向きさです。
2021/10/27
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