うるさいこの音の全部
「うるさいこの音の全部」のおすすめレビュー
外野が一番うるさい! 芥川賞作家・高瀬隼子が生々しく描き出す「作家デビュー」の不穏な舞台裏
『うるさいこの音の全部』(高瀬隼子/文藝春秋) 外野はうるさい。ペチャクチャと好き勝手に物を言う。「いや、それは違う」「やめてくれ」と言いたくても、そういう時、決まって自分のノドはカラカラに渇いて、何も言えない。嫌われたくなくて愛想笑い。そうしているうちに、自分のことが分からなくなってくる。本当のことなんて、どこにもないような気がしてくる。 そんな、周囲の人と関わるたびに感じる心のモヤつき——それを描き出す天才が『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)で芥川賞を受賞した作家・高瀬隼子氏であるような気がしている。目を背けようとしてきたことをまざまざと見せつけられた動揺と、それを言い当てられた痛快さ。それらは、最新作『うるさいこの音の全部』(文藝春秋)でも存分に味わうことができる。描かれるのは「小説家デビュー」により歪み始めた女性の日常だ。作家の生活を覗き見たい好奇心で読み始めたはずが、読めば読むほど、心がザワつく。「こんな思いを抱えていたとは」という申し訳なくなるような気持ちと、「この不安感、身に覚えが……」という共感とで、何だかクラクラと目眩が…
2023/10/10
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「想像で書いたのに、結果的に自分が似た境遇になってしまった」――新作小説『うるさいこの音の全部』で作家デビューの舞台裏を描いた思いとは? 芥川賞作家・高瀬隼子さんインタビュー
『うるさいこの音の全部』 (高瀬隼子/文藝春秋) 2022年『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)で第167回芥川龍之介賞を受賞した小説家・高瀬隼子さん。2023年10月に新作小説『うるさいこの音の全部』(文藝春秋)が刊行されました。本作の主人公は兼業作家の朝陽。「早見有日」のペンネームで書いた小説が芥川賞を受賞し出版されたことで、彼女の日常が軋み始める――という「作家デビュー」をテーマにした物語です。自身と似た境遇の主人公を描いた高瀬さんの、本作に込めた思いをお聞きしました。 (取材・文=立花もも写真=内海裕之) 「こんなふうになったらいやだなあ」と思ったことを書いていた ――読み手のいろんな感情を掻き立てる小説ですね。小説家、それも芥川賞を受賞した女性が主人公ということで、どこまでが高瀬さんの現実とリンクしているのだろうと邪推する読者も多そうですが……。 高瀬隼子さん(以下、高瀬):そうなんですよね。『おいしいごはんが食べられますように』で芥川賞を受賞したとき、小説を書いていることが周囲にバレて、ちょっとざわつきはしましたけど、1年経ってようやく粛々と仕事が…
2023/10/20
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うるさいこの音の全部 / 感想・レビュー
夢追人009
芥川賞作家・高瀬隼子さんの第5作ですね。ある会社の正社員として働く傍ら、文学賞に応募した作品が認められて単行本化されたラッキーなヒロインが、続いて書いた2作目が何と芥川賞を受賞してしまう。本書はヒロインの経歴を除けば作者ご自身の心境を書かれている様にも受け取れますね、人間というのは周囲からおだてられもてはやされるとどうしても本来の自分のままではいられなくなり悪い方に変質してしまうものなのだろうかと考えてしまいますね。普通の平凡な言動では読者に飽きられると恐れるあまりに過剰なサービス精神に駆られるヒロイン。
2023/10/17
starbro
高瀬 隼子、4作目です。半分私小説的な芥川賞受賞後反響小説、著者版『うっせぇわ (Usseewa)』 といった感じでした。 https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163917610
2023/11/03
fwhd8325
やはり、作家という職業はすごいと感じさせてくれる。等身大の高瀬さんであろうとなかろうと、この物語は面白い。そこに作家としての高瀬さんと作家でいないときの高瀬さんがいるんだと、強烈に印象付けられる。
2024/04/27
とろとろ
読み始めは、著者の頭の中の事柄と現実世界で著者が話した言葉が分けて書いてあると思っていたけれど、いつの間にか現実と頭の中の世界がごちゃ混ぜになって、どこまでが頭の中の話なのか現実なのか、もう何だかわけわからんようになった。読んでいる自分の頭の中もこんがらがって、「どうせ話すことは逆だろう」とか「思っていてもしゃべらないで話を合わせるだけなんだろう」とか、だんだん第三者目線で、どんどん冷めた気分になって読み終えた。とにかく、これは芥川賞作家らしい話だなと。感想はそれだけしか浮かんでこなかったm(_ _)m。
2024/03/12
道楽モン
限りなく私小説風の創作で、虚々実々の境界を想像しながら読むのが楽しい。2篇の作品舞台の間に、作者本人の芥川賞受賞があり(実際は受賞前に書いたらしい)、兼業作家の社会生活と、一躍有名になってからのマスコミ取材で自我を喪失しそうになる様子が切実ながら可笑しい。とはいえ、高瀬隼子らしい対象への距離を保ってシニカルに描写する視点は何も変わらない。自身の不安と外野からの騒音をも受け飛ばし作品に仕上げるあたり、作中の作家より数倍もしたたかだ。やはり高瀬隼子、読み続けるしかない。
2023/11/28
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