トッド人類史入門 西洋の没落 (文春新書 1399)
トッド人類史入門 西洋の没落 (文春新書 1399) / 感想・レビュー
trazom
トッド氏の近著「我々はどこから来て、今どこにいるのか?」を踏まえ、刺激の強い3人が語り合うと暴走は止まらず、面白すぎる。ハラリ的言説が支配的な今の世界で、ロシアの行動の合理性を認めるトッド氏は異彩を放つ。英米型個人主義が限界に達した中で、道徳的保守主義に基づくプーチン氏の多極的世界観を評価し、汚職に塗れ腐敗した破綻国家であるウクライナを武装化させた米英を批判する。人口学者・家族人類学者としての高い業績に比して、「トッドの書物は歴史や政治の構造分析になると一挙に精彩を失ってしまう」(山内昌之先生)なのか?
2023/06/08
アキ
そもそも新書とはそれ自体で完結する本ではなく、学術書を読破するための入り口としての役割をもつものらしい。その意味でエマニュエル・トッドの「我々はどこから来て、今どこにいるのか?」の副読本になっている。復習にちょうど良い。家族システムは、核家族→直系家族→共同体家族という形で進化し、英米の核家族社会は創造的破壊を得意とするのに対し、日独の直系家族社会は世代継承を得意とするが、硬直化という欠点がある。「第三次世界大戦はもう始まっている」は母国フランスより先に日本で出版しすでに10万部に達している。今度読もう。
2023/04/30
パトラッシュ
トッドは『我々はどこから来て…』で核家族化した英米が世界発展の先頭を走ってきたが、ロシアや中国など世界の7割は共同体家族社会下にあるとする。ウクライナ戦争は個人至上主義の米欧日連合に対する伝統的家族観側の聖戦であるとのプーチンの主張に理解を示し、人類学的な価値観の衝突という事実上の第三次世界大戦が始まっていると言い切る。いわば先行利益を貪る西側に対し、食い荒らされる側の恨みが爆発したと捉えているのだ。ポリコレやLGBTQなど己の価値観を他人に強要して憚らぬ欧米の現況を見る限り、一定の説得力を感じてしまう。
2023/09/17
ケイ
読メ内でオーディブル版が見つからず、こちらで登録。ウクライナと戦闘が始まる前のプーチンの演説を、話者がプーチンと知らずに聞けば、それなりに納得できる内容だとの佐藤氏とトッドの見解。聞いて(読んで)確かめようとは思わないが、ある事実を述べる際に視点を一方向に定め、その中で論理的展開がなされれば、説得力をもつ演説は可能だろう。この本はトッドについて片山と佐藤とが語る内容も多く、偏っている印象を持つ。ジュンパ・ラヒリ対トッドの見方は面白い。ラヒリは今のイスラエルのガザ攻撃についてどう思うのか聞いてみたい。
2023/10/31
ta_chanko
家族類型から見ると、自由民主主義は人類普遍の原理ではなく、原始的な核家族構造をもつ米英(アングロサクソン)の行動原理。新自由主義の行き過ぎにより、直系家族の日独や共同体家族の中露などとの行動・思想的な乖離が大きくなっている。ウクライナ戦争では、アメリカはドイツの弱体化を目論んでいる。アメリカのGDPは金融・保険・訴訟・医療などで必要以上に嵩上げされていて、真の生産力を表していない。戦争ではリアルな生産力が物を言う。ロシア経済は意外と強靭。制裁に加わらない国も多い。
2023/05/04
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