東京セブンローズ 下 (文春文庫 い 3-22)
東京セブンローズ 下 (文春文庫 い 3-22) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
上巻ではリージョナルで身近な視点からリアリズムの筆法に徹していたのだが、下巻に入っていよいよ東京セブンローズが活躍するに及んで、そこにズレが生じてくる。すなわち、基本的にはリアリズムの路線を踏襲するのだが、それだけでは描ききれず、かといって井上ひさしが得意とする自由で奔放な発想が発揮されるわけでもない。残念ながらどっちつかずのままに終息した感も否めないのである。主題は日本語の表記の問題に移るが、その結論もまた曖昧さを残す。それこそが日本語らしさという訳でもないであろうに。
2022/03/30
ちゃま坊
読書を続けて数十年たっても、読めない漢字が確かにたくさんある。なるほどGHQのボブが言う理論も一理ある。漢字を追放し、習得に使うエネルギーを他へまわせば、日本人はもっと業績をあげられる。ローマ字にすれば印刷活字も少なくて済む。アメリカ製のタイプライターも普及する。7人の女子たちよ、この間まで鬼畜米英と呼んでた連中と男女の仲になっている、なんという変わり身の早さ。そして日本文化を守る戦いを挑むたくましさ。井上氏に似ている主人公のオジサンはぼやく役か。
2020/01/24
ハチアカデミー
上巻の最後で姿を現した東京セブンローズが暗躍する戦後日本の戦いは、日本語を守ることであった。漢字こそが日本人の精神を培っている。だからこそそれを廃止し、ローマ字による表記にすべきであるという米さんの思惑に対し、女性達が立ち向かう。本書の日記の書き手たる山中信介は行為の主体ではない。戦前・戦後の混乱に巻き込まれたひとりの男にすぎない。その名の通り信じることを介助する役回りなのだ。「大日本帝国の実体、その中身というのは、なんのことはない、当時の支配層のことだったんですな」そんな新聞記者の言葉は今も変わらない。
2014/05/28
Mark.jr
戦前団扇屋を営んでいた主人公・山中信介がつけていた日記という体裁の小説です。前半は戦時下での不安定な社会と戦後変化した社会と価値観に主人公が翻弄される様子が描かれます。それだけなら、創作でよく見られる話ですが、凄いのは後半でGHQが日本語を無くし日本を英語社会に変えようとする計画が語られます。ここが著者の真骨頂で、日本語とは何なのかという問いへと踏み込む様がスリリングです。話に説得力を持たせるための、細部に至る書き込みでこのボリュームなのでしょうが、もっとコンパクトだったら迷わず傑作と断言していました。
2019/05/26
圓子
上巻にくらべて下巻は暗澹たる気分。占領時代のバカらしさといったら、敗戦前のバカらしさに勝るとも劣らない。占領されたくもありませんし、占領したくもありませんね。さて、大団円を迎えるにあたって、尻すぼみというか。。「そんな仕掛けでそんな大ごとを!?いいの?」というかんじが否めなかったのですが。そして通奏低音のような「男はばかなのか…」感。井上ひさしの懺悔だといい、けど…モチーフからして全くそうじゃないんだろうなあ。。雑念はおいはらって。やはり大変な力作・名作だと思いますので、簡単に入手できない現状は解せぬ。
2018/03/24
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