新装版 青い壺 (文春文庫)
新装版 青い壺 (文春文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
全13話からなる連作短篇集。第1話から最後まで連関性を持ち、全体として円環を結ぶ構成をとっている。同時に各話の独立性も保たれつつ、表題の青い壺が物語の核として機能するという構造である。ただし、この壺は作者、庄造の畢生の作品なのだが、その扱われ方は各話さまざまである。どの短篇もなかなかによくできており面白いし、有吉佐和子の文体もまた古さも感じさせない。この作品群の一番の妙味は、やはり人物像の造型の確かさにあるだろう。さすがにヴェテランの練達の業を感じさせるのである。私は第9話が面白かったが、他もほぼ同等。
2024/07/01
ふじさん
一人の無名の陶芸家が焼き上げた美しい青磁の壺を巡る13の連作短編集。十余年後に再会するまでに壺が関わった数々の人生。疎まれたて人の手に渡ったり、治療費に代償になったい、酒場に置き忘れられたり等、翻弄されながらも壺は、遺産相続、病気、母親や嫁姑の葛藤等、様々な人生模様の中に存在することになる。有吉佐和子が追い求めた美とは?真の美しさとは何か?を問いかける1冊。各編に様々な工夫があり、登場人物が際立つ巧みなタッチに心を奪われた。
2024/04/18
いつでも母さん
13話からなる連作短編集。この青い壺だけが知っている。この壺だけが見てきた―昭和52年の作品を今、とても面白く読んだ。人の可笑しさ。心の表裏はいつの世もそう変わらない―牧田という陶芸家が焼き上げた美しい青磁の壺が次々と人に渡り・・外国迄も行ったはずなのに再び製作者の前に現れる不思議と言うか、これはもう運命なのか。だが、人は自分の目を通してしか信じない。それは幸せとも言う。
2024/04/05
ちょろこ
ツボる一冊。有吉さん2冊目。こちらも当たり。とある無名の陶芸家が世にも美しい青磁の壺を焼きあげたところから始まる13のストーリー。売られ、お使い物にされ…いろいろな家庭や地、海までをも越えて行き来する壺の長い旅。移動するたびに見せられる小さなドラマといろいろな人間の心の素の模様。これが実に面白い。飾らないストレートな言葉、あけすけな会話のおかげかな、随所でツボり、これから自分も辿るに違いない道に時にこっそりうなずいてしまったり。片隅で鎮座し、人の心や世間事情を見ながらほくそ笑む壺を想像するとふふっとなる。
2024/05/05
タイ子
陶芸家の手によって作られた青い壺が人に手に渡りながら、その時々の様々な人生模様を描いていく13話の連続短編集。おとぎ話のようにこの青い壺が奇跡を起こすわけでもなく、誰かの命を救うとかそんな陳腐な物語ではない。それぞれの事情を抱えた家族や50年ぶりに再会する同窓会での女性たちが文中に生き生きと立ち上がってくる。何だか逆に青い壺に見つめられるような人間たちの生き様。時代背景に昔を思わせる要素は多分にあるが、時代は進化しようと人の心は変わらないんだなと思わせてくれる。青い壺を巡っての人生模様を大いに堪能。
2024/04/07
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