樹影譚 (文春文庫 ま 2-9)
樹影譚 (文春文庫 ま 2-9) / 感想・レビュー
南雲吾朗
眼に入れば一瞬でしかない風景を、これ程までに精彩で美しく言葉に変換してしまう丸谷氏の表現力は、間違いなく芸術である。「鈍感な青年」は思春期の青い体験を、日常の通り過ぎて行ってしまう事柄を、常人では気付かない違う視点で観させてくれる。表題「樹影譚」は、物語の入り口は美しい文書に圧倒されるが、知らぬ間に全く別の方向へと導かれる。同作者の「横しぐれ」や、内容は全く違うがヒッチコックの「サイコ」の様な導き方である。「夢を買ひます」は、本当に何気ない日常の会話を凄く興味深く読ませる。丸谷氏の作品は本当に文章が旨い。
2022/04/16
ケイ
村上春樹『短編小説案内』で表題作を紹介。ややこしい話。主人公は樹の影にひかれる。都心の住宅街でふと出会う、コンクリートの壁やアスファルト、また小さな公園の地面に樹の影がうつるホッとさせる光景を思い浮かばせる。そこで樹の話を書こうとするがナボコフがすでに書いている気がしてやめ、そして違う話を書き始める。ここからが長い、段々怖くなる話。作中話のキーは、継子譚。興味深い話だが、引用される比喩がまがい物で、読解が難解なため、村上春樹の解説を読み直して再読。彼の解説に感心する。なるほど、三段ロケットか。感服。
2014/01/13
サンタマリア
面白いなぁ。歴史的仮名遣いで書かれているが、すらすらと情景が浮かび上がってくる。「樹影譚」は再読だが読んでいて楽しかったし新たな発見もあった。入れ子構造がばっちり決まってる。けれども肝になる文学論への理解が浅いため読み落としてる箇所も多分にある。これからも読み返すだろう。他2つの短編も良かったし解説も良かった。
2021/10/30
Tadashi Tanohata
大正(14年)生まれ、昭和に活躍した作家、丸谷才一。この時代にこれ程ユニイクな作家がいたとは、たぢろぐことしきり。どうでせう。特に随所に盛り込む「小説論」が面白い。「作中人物は意思を持ち作者の心の奥をあばくといふ」最後は読者に委ねられるともある。さうだよ、さうだよと、未熟にも寄せてレビユウ。
2020/10/16
D21 レム
「樹影譚」は、大好きな話だ。理知的なとつとつとした主人公が、話の長い平凡なありがちな、老婆の話にひきこまれ、最後は思わぬ結末に。うまいなあ!そして、小説として気持ちがいい。「鈍感な青年」は鈍感さに味がある。解説にある「文学は余裕からうまれるものだ」というのが、よーくわかる。余裕がある著者がつむぎだす物語は、なんて、読後感がいいのだろう!「樹影譚」は背景を調べて深読みしたらもっとおもしろいはず。もともと丸谷才一が好きだったが、他も再読しようと思った。
2016/02/14
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