高丘親王航海記 (文春文庫 し 21-1)
高丘親王航海記 (文春文庫 し 21-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
読み終わって、静かな余韻に包まれる。そして、あらためて小説家としての澁澤の凄さを思う。実在の高丘親王をモデルに博覧強記を縦横無尽に生かしきった物語。プリニウスの『博物誌』などはいつものことだが、彼の博識ぶりは壇萃の『滇海虞衡志』をはじめとした中国の古典籍にまで及ぶ。また、平城帝と薬子のくだりは上田秋成の『春雨物語』巻頭の「血かたびら」を典拠としていることは明らか。なお、「儒艮」には「近き将来、南の海でふたたびお目にかかろう」などと、澁澤の盟友、三島の「春の雪」の輪廻転生を思わせるものまで織り込まれている。
2014/05/24
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
密林のなかから迦陵頻伽がほうと鳴く夜蒸し暑さに魂は彷徨い出でた。わたしのいる部屋をあけることができたらあなたの為に卵を産んであげましょうと愛しいひとは艶然と微笑。扉の先には儒艮肉を食べれば道はひらけますと臓腑を差し出すのでいえ生憎今は満腹でと婉曲に断る。いくつ扉を開けても愛しいひとはなく途方に暮れて笛を吹いて紛らしているとアリクイがやってきて騒音問題ですよと猛然と怒るので丁重に謝罪。ああもういっそあなたの卵になりたいと叫ぶと世界は泡となって霧散する。枕元には卵のように美しい真珠がころり、夏の夜の夢。
2020/05/03
YM
本でも映画でも、これはすごい!って作品に出会う瞬間が年に何回かあるけど、本書はまさにそれ!もう鳥肌立ちまくり、涙こぼれまくり!澁澤龍彦がこんなポップでワクワクする小説を書いてたんだ!何と言っても登場するキャラクターがみんな愛らしい。儒艮飼いたいなあ、獏になりたいなあ、虎に喰われたいなあ。薬子のミューズぷりは最高だよね。後半、親王と澁澤氏がオーバーラップしてきて震えた。過去やら未来やら、夢やら現実やら、とにかくこの旅がずーっと終わらなきゃいいのに。でもいつかまた会える気がするんよね。僕がその気にさえなれば。
2014/11/30
kinkin
これぞ日本のファンタジー。書かれていることの真偽、筋書きなどはどうでもよく、ただその文章に目を通しながらうつらうつらといい気分に浸る。わかろうというスタンスで読むと挫折するかもしれない。リチャード・ブローディガンという作家を思い出した。彼の本もネイティブの人が読むとこの本同様、キラキラとした不思議な世界を体感するのかもしれない。
2015/04/12
(C17H26O4)
遺作。親王が天竺への旅路にて見たのもは夢か幻か。ジュゴンや下半身が鳥の女、獏やラフレシアなどが妖しく魅惑的だ。また、姿を変えて度々現れる薬子の存在は幻想的である一方、生々しく甘やかに匂い立つようで、親王と共に読者をもどこかへと誘っているように感じる。後半、死の影が急速に濃くなるのが悲しい。澁澤自身が自分の喉の真珠を薬子に取り出してもらい、ひと時安らぎを得るところを空想しているようにも思えた。虎に食われた後、親王の霊魂は天竺へわたることはできただろうか。「みーこ、みーこ…」春丸の顔をした頻伽の声が耳に残る。
2019/06/09
感想・レビューをもっと見る