ペット・セマタリー(下) (文春文庫 キ 2-5)
ペット・セマタリー(下) (文春文庫 キ 2-5) / 感想・レビュー
Tetchy
情理の狭間で葛藤する父親が、愛情の深さゆえに理性を退け、禁断の扉を開いていく心の移ろう様をキングは実に丁寧に描く。判っているけどやめられないのだ。この非常に愚かな人間の本能的衝動を細部に亘って描くのが非常に上手く、そして物語に必然性をもたらせる。家族の愛情こそがこの恐ろしい物語の原動力なのだ。どこの家族にもあり得る悲劇や凶事だからこそ、キングのホラーは超常現象を扱いながらも我々の心に迫真性を以て染み入ってくる。キングはそんな風に人の愛情を天秤にかけ、読後もしばらく暗澹とさせてくれる。実に意地悪な作家だ。
2018/06/17
藤月はな(灯れ松明の火)
忌み地とも言える場所の存在。禁じられたとしても家族をもう一度、この手で抱きしめることができるなら尚更、そうしたくなるのが当たり前だ。・・・本当に?映画の方がまだ、救いがあった。何故ならゲージは自分を生き返らせた父親に対し、”You're not fair."「ずるいよ」と言えたのだから。しかし、原作で最も残酷なのは『シャイニング』のジャック同様、今際にゲージの魂が帰ってきた事だ。帰ってきた彼が、本当の最期に見たもので陥った深い絶望を思うと余りにも救われない。だからこそ、彼の叫びは今も強烈に谺している。
2019/04/13
ケンイチミズバ
イタリアで戦死した息子をあの土地に埋めれば蘇ると思った父親はそれをしてしまう。町を挙げ葬儀が行われたはずなのに、彼が歩いている目撃情報が複数寄せられる。軍は黙っていない。戦死は別人で偽装による脱走であれば大変なことになる。追い詰められた父は息子を射殺し家に火を放ち、自分も自殺した。戦時中のおぞましい話をどうして娘の猫を蘇らせた時に話してくれなかったのか、しかし、最愛の息子を失ったルイスの心はもう決まっていた。蘇りの噂はその町に昔からあり、別のものになって戻ってくる、あれは悪だと。人間は愚かで悲しく愛しい。
2020/01/17
ビブリッサ
再読。誰がルイスを責められよう。神であるイザナギでさえ死者を呼び戻そうとしたではないか。人ならざるモノとしての蘇りと頭で理解していても、心は望むのだ。かの墓地への埋葬が我が子をウツシヨに引き戻してくれるならと、何度も過ちを繰り返す彼を糾弾できない。それは、おはなしだと分かっていても哀しく恐ろしい。閑話休題。前にイタコの特集番組を観た。インチキと眉唾で見ていたが、彼女たちの口寄せは誰でも同じことを言った。「今日は来てくれてありがとう。私も死にたくはなかったが、仕方のないことだった。今はこちらで先祖や友人
2017/07/10
なぎさ
「虎穴に入らなければ虎児はえられないのだし、おそらく愛なくしては虎穴に入ることもできまい」救いようのない狂気の愛の物語。ITよりドライでハードな内容。人間の愛って虚しく切ないものですね…
2016/07/13
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