闇の傀儡師 (カイライシ) (下) (文春文庫)
闇の傀儡師 (カイライシ) (下) (文春文庫) / 感想・レビュー
AICHAN
幕府御家人の家を捨てて浪人になった鶴見源次郎(架空)が、あることから不気味な権力闘争に巻き込まれていく。三代将軍家光のころ弟の忠長が幕命で自刃した(史実)。主君を失った元家臣たちは幕府に恨みを持ちその末裔たちがこの時代にも跳梁していた(架空)。源次郎は彼らと闘うのだ。源次郎の友人の旗本細田民之丞は絵師を志していた。その画号は鳥文斎栄之。「栄之?」と記憶が甦った。栄之は藤沢さんの別の短編で登場していたはずだと思った。すると実在の人物かと調べてみたらそうだった。史実をうまく織り交ぜた見事な伝奇物だ。
2016/03/10
GaGa
藤沢氏の作品にしては暗い雰囲気が無く。鶴見源次郎という剣豪がとにかくヒーローとして描かれている。徳川将軍継嗣問題でたびたび現れる謎の徒党「八嶽党」やそれを操るものたちが織り成すストーリーはミステリータッチで読み出すと止まらなくなる。個人的にはラストで主人公がある人物の遺髪を山椿の根本に埋めるところが堪らなかった。ある意味上質なハードボイルドでもある。
2010/08/10
AICHAN
歴史小説を読んでいつも思うのは、家々の壁や塀の下に雑草を描いてほしいということ。不動産会社で物件点検のバイトをしたときアパートの周りはもの凄い雑草で覆われていたし古いアパートの室内(空室)は虫の死骸でいっぱいだった。アスファルト地面からもそんなに雑草が生えるのに、土の地面から雑草が生えないわけがない。武家屋敷や商家なら誰かが草刈りをやっていたかもしれないが、町の長屋などに雑草が1本もないのはおかしい。また、今より格段に気密性の低い屋内にはシラミや蚤やゲジやゴキブリがたくさんいたはずだと思うのだ。
2015/12/12
AICHAN
伝奇ものといえば吉川英治だ。吉川英治の伝奇小説は間違いなく面白い。ページをめくる手を止められなくなる。しかし、深みがない。一度読めばそれでいい。比べて藤沢さんのこの伝奇小説には深みがある。面白いことは面白いしでぐいぐい引き込まれるが、それだけではない。何度も読みたくなるような深い味わいがある。惑溺してしまうほどその魅力は強烈だ。おそらくそれは藤沢さんの精緻で正確で無駄がなく書きすぎでもない描写によるところが大きいだろう。抑制された文章によるそれら描写がコクのある見事な味わいを醸し出している。
2015/11/01
AICHAN
「修行しているうちに、ふっとある場所にたどりついたと気づくことがある。(中略)別の境地に入っていたというようなものでな。(中略)そのことに気づいて見直すと、それ以前のおのれの技術というやつが、まことに児戯にひとしいものだったことが見えて来る」…この文章に大共感。これは主人公が剣術について言っているのだが、武道に限らずスポーツ、仕事と何にでもこのことは言えると思うのだ。進歩というのは少しずつではなく階段状にいきなりドンッとレベルが上がるのを繰り返していくものだということを私も仕事などで経験している。
2015/11/20
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