霧の果て―神谷玄次郎捕物控 (文春文庫)
霧の果て―神谷玄次郎捕物控 (文春文庫) / 感想・レビュー
yoshida
同心・神谷玄次郎が江戸に起きる事件を追う連作短編集。神谷は14年前に母と妹を惨殺されている。事件を追う神谷は14年前の事件の真相に近づく。藤沢周平さんの作品としてはハードボイルドな作風と思う。例えば「用心棒日月抄」シリーズのような人情の機微や、剣戟の緊張感は比較的抑えめで、推理に力を入れている。面白さとしては「用心棒日月抄」シリーズの方が好みと感じる。このハードボイルドさは藤沢周平さんの初期作品に通じる部分もあると思う。推理の妙味、神谷とお津世の関係など、藤沢周平さんの作品ならではの面白さがある作品。
2018/04/29
タツ フカガワ
三読目。神谷玄次郎は北町奉行所では怠け者の烙印を押されている定町廻り同心。その玄次郎には14年前、母と妹が斬殺される苦い過去があり、それは当時同心だった父が調べていた一件と関わりがあるといわれていた。8話の連作は“彫師伊之助”シリーズに通じるハードボイルドな捕物帖。数々の事件を解決していくなか、やがて母と妹が殺された真相と事件の黒幕に辿り着く終章の玄次郎は、今回も惚れ惚れするほどかっこいい。
2024/01/27
kei302
【海坂藩城下町 第9回読書の集い「冬」】有能なのに怠惰な同心玄次郎、日々の探索仕事をこなしつつ、家族の死の背景を探る。霧の果てにある理不尽な真相を掴み、黒幕の前に姿を現す幕切れは切ない。敵討ち的な展開にしないところが藤沢作品。勧善懲悪 悪人成敗が好きな人は物足りないかもしれないが、まあ こんなものさと淡々と受け止めるラスト、好みです。
2024/01/16
ito
定町廻り同心の玄次郎は奉行所きっての怠け者なのだが、仕事に対する姿勢はきまじめで有能である。14年前に起こった母と妹の殺害事件が未解決のまま葬られたことが心のしこりとなっており、どこか奉行所という組織にもなじんでいない。はれる事のない霧がいつも心の中にある。14年前の事件解決に執念を見せるが、霧の果てに見えたものは、どこかあっけなく人生のむなしさを感じてしまう。銀蔵や津世、市井の人々とのやりとりが生き生きと描かれており、ほのぼのと暖かく感じた。やはり藤沢作品はいいなと思う。
2014/06/03
モトラッド
[再読]★★★★ 藤沢作品の中で主人公が武士の捕物帳は、この『霧の果て』だけという、とても貴重な一冊。その主人公は、北の定町(じょうまち)廻り同心=神谷玄次郎。とても味わい深いキャラクターである。その脇を固めるサブキャラ、小料理の女主人“お津世”、岡っ引きの“銀蔵”らが、更にストーリーを奥の深いものにしている。連作短篇という構成に加えて、タイトルの『霧の果て』が、実に言い得て妙なのである。読み終わって、はたと膝を打つこと間違いなし。藤沢文学ファンとして、外せない一冊。
2019/02/27
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