よろずや平四郎活人剣 (下) (文春文庫)
よろずや平四郎活人剣 (下) (文春文庫) / 感想・レビュー
AICHAN
「天保の改革」という時代背景をしっかりと踏まえ、武家の社会と町人の社会をきっちりと描き分けている。主に出てくるのは町人だが、主人公は武家であり、役持ちの兄のために幕政に少し関わるので、幕府の幼稚な改革がどうして行われたのか、それで江戸市民はどういう目にあったのか、うまく描いている。改革により厳しさを増す中で健気に生きる町人たちの姿が何ともいい。悪い奴もいたろうが大半は善良な市民だったろう。彼ら町人についつい声援を送りたくなる。江戸で暮らす人々の息づかいがちゃんと聴こえてくる作品だ。
2016/01/14
AICHAN
主人公の剣術仲間のひとりは寺子屋経営者。江戸時代、禄を離れた侍たちが生きていくために就いた仕事で最も多かったのは寺子屋経営だったかも。寺子屋はびっくりするくらいたくさんあったようなのだが、そのお師匠さんになるには最低限でも文字の読み書きができなくてはならなかった。江戸初期、読み書きができたのは坊さんと武士階級と商人階級にほぼ限られていた。当時の商人が寺子屋をやる必要はなかったと思うので、お師匠さんのほとんどは武士と坊主だったと思う。この寺子屋のおかげで江戸時代の日本の識字率は格段に高まり世界一になった。
2015/11/22
AICHAN
主人公が正月に裏店の井戸でふんどしなどを洗濯するシーンがある。冬は水が冷たくて洗濯も炊事もしんどかったはずだ。でも、江戸はまだよかっただろう。東北諸藩や蝦夷の松前藩などでは過酷と言ってもいい労働だったのではないか。アイヌの人々はもっと北にも住んでいたから、彼らはどうやっていたんだろうか。北海道開拓中期までストーブがなかった。囲炉裏だけ。開拓農家の家は板1枚の掘っ立て小屋。玄関と窓がくりぬかれていてムシロ掛け。みんなよく凍死しなかったものだと、この小説から離れて想像が飛んだ。
2015/11/09
AICHAN
主人公が明るいのがいい。“活人剣”とあるが派手に斬り合うことはあまりなく、力で悪を制するという話でないのもいい。「よろずもめごと」の仲裁に駆け回る姿が微笑ましい。水野忠邦が推し進めた天保の改革により暗くなった江戸の町の描写もうまくて、教科書よりこの本を読ませて天保の改革について教えたほうがいいのではないかと思った。「家出女房」には少ししみじみした。元妻も昔、男ができて私と子供たちを置いて家出したことがあるからだ。半年で帰ってきたけどその男とは私の目を盗んでその後何年も続いた。太い女だった。
2015/11/05
タツ フカガワ
上下巻通じて平四郎はいろんなならず者たちと立ち向かうが、そのなかでも魅力的なワルが桝六。上巻「亡霊」と下巻「暁の決戦」で2度登場する。平四郎との、まるで剣戟のようなやりとりは何度読んでも面白い。その上をいく悪党が鳥居甲斐守耀蔵だが、こちらはワルの魅力ゼロ。
2017/09/29
感想・レビューをもっと見る