海鳴り (下) (文春文庫) (文春文庫 ふ 1-19)
海鳴り (下) (文春文庫) (文春文庫 ふ 1-19) / 感想・レビュー
ミカママ
ああ、読み終わっちゃった。私自身の情況設定は、もちろん美貌で薄幸の人妻「おこう」なんだけど、心情的にはめっちゃ新兵衛に移入。「破滅」の章、タイトル見ただけで膝が崩れそうになってしまった。人生の後半で「身体の結びつきがそのまま心の結びつきであるような」相方に出逢ってしまったら、そりゃ人生、あたしだって棒に振るよ!藤沢周平作品中、ベスト。ふたりに永遠の幸あれ。
2016/09/26
ヴェネツィア
全体を覆う暗鬱な情調は藤沢周平らしいと言えるのだが、それにしてもこの生き辛さはやるせない。新平衛にとって、それまでに築いてきたはずの半生とはいったい何だったのか。一方のおこうには、むしろ明るい希望のようなものが見えるのが救いだろうか。こうした構図は、まさに近松の世話浄瑠璃に見られるものに他ならない。しいて一番近いものを挙げるならば『冥途の飛脚』だろうか。ただし、近松のそれとは違って、藤沢周平の描いてみせた結末はずいぶん甘いのだが。一方、長編としての利点は、彼らの想いや行為が重層的に描かれていることだろう。
2016/08/28
さと
男と女の在りようが生々しく伝わってくる。引き返せない運命に身を投じた二人を通して男の幼さ、それ故のプライド、女の強さを上手くあぶり出していると感じた。自堕落な息子を前に小野屋の主人として、倫に外れながらも人生の光を見出した一人の男として、それぞれの苦悩を敢えて抱え人間臭さを放つ新兵衛。なぜか、大きく頼もしく感じたのは私が女だからだろうか。
2016/10/06
万葉語り
江戸時代では御法度の(今でもそうかも)不義密通がテーマで、四方八方ふさがってしまっているのに小野屋新兵衛とおこうの明るさはいったい何だろう。お店のことも跡継ぎのことも奥さんのことも犯してしまった罪も何一つ解決していないのに、何となくどうにかなるだろうと思わせられる。先のことはどうあれ、自分の思うがままに、生きてみるのもたまにはいいかと思った。まさに怒濤の展開でした。2016-53
2016/02/18
shincha
この作品は、江戸時代の恋愛小説だ。主人公の新兵衛は、紙の仲買人の出で、問屋株を買い、一端の問屋として何とかやってきた商人。商人としてがむしゃらに生きてきたが既に初老の年齢。妻との不仲、跡取り息子のあほさ加減…。家庭問題は山積。そこに塙屋彦助という蛇蝎のような輩が絡んできて…。40代後半に差し掛かる主人公の心の焦りと変遷が藤沢さんの丁寧な筆で描かれる。武士が全く出てこなくても、そこは藤沢さんの世界感。江戸の市井の商人たちの考え方や、生き方、そこに縛られながらも強く生きる人たちが描かれている。面白かった。
2023/08/09
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