花のあと (文春文庫 ふ 1-23)
花のあと (文春文庫 ふ 1-23) / 感想・レビュー
ミカママ
なんと温かな時代小説。どれも秀逸であるが、ベストはと問われれば、迷わず『冬の日』を挙げる。寒い冬の夜に再会した酌婦は、昔の幼なじみだった。中年を過ぎたふたりは、それぞれ人並み以上に世間の荒波にもまれて。ラストがとにかく素敵で、思わず身ぶるいしてしまう。そこここに描かれるエロチシズムも、さすが藤沢周平。
2018/02/03
ヴェネツィア
主に'80年代に書かれた短篇を8つ収録。中では表題作(表紙の絵もこれ)が断然秀逸。藤沢周平の数ある短篇の中でも特に優れ、印象に残るものの1つだろう。芥川の「地獄変」のように、語りにおいて老人の回想形式をとったことも成功しているし、なによりも主人公の武家娘の以登が魅力に溢れている。武芸に秀でているのも痛快だし、彼女の「忍ぶ恋」もまた、けなげで哀切感を誘いつつも、見事なまでに自己完結しているのである。「雪間草」の松仙もそうだが、この集では封建社会の中にありながらも、女性の主人公の自立性を見事に描き出した。
2012/11/19
ケンイチミズバ
何度も、繰返し読んでも新鮮で心に響く藤沢周平の描く人の営みの世界。引退した泥棒の敵討ち、版元を金儲け一点張りだとくさす英泉の言葉は上の空、既に次の構図が浮かぶ広重、苦しい台所事情を抱える藩で金策に失敗し責任をかぶろうとする藩士、病弱な大店の亭主に男としての不満を抱く女房、不逞な養子のしたこと、女の自分に本気で剣術の手合わせを受けてくれた男への淡い気持ち、それを吹っ切る潔さ、男女を超える友情のような、なんとも清々しさ。人それぞれの思いが現代と何ら変わらない不変の人間模様、空模様。一番心を打つのは花のあと。
2019/09/20
ALATA
映画を見て気になり購読。海坂藩と市井の町民の人情噺短編集。表題作の桜の花咲く季節の情景模写が素晴らしい。凛とした美しさを持つ以登女の華やかさと剣の達人に手合わせを願う一途なところが儚げでいい感じでした。他に病いに倒れた姑を見舞う「寒い灯」、幼馴染と思わぬところで再会する清次郎「冬の日」が好み★5※河内屋庄兵衛殺しの謎を追う「疑惑」が著者に珍しいミステリー仕立てでお得でした。
2022/03/17
kinkin
短編集。市井もの、武家ものどちらも先の展開が読めずわくわくしながらついページが進んでしまう。特にミステリーのような「鬼ごっこ」や「疑惑」が楽しめた一方でラストで心が暖かくなった「冬の日」、「悪癖」のような武家ものとしては異色なものまで、どれもほどほどの長さがいい。藤沢作品はハズレなし。じっくりと長編、時間の空きにちょうどよい短編、再読でも十分楽しめると思う。
2016/09/01
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