漆の実のみのる国 上 (文春文庫 ふ 1-32)
漆の実のみのる国 上 (文春文庫 ふ 1-32) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
随所にフィクションが含まれるのだろうが、基本的に藤沢周平はできるだけ史実に忠実に書こうと試みたと思われる。何故なら、本書は米沢に対する愛着、そして上杉治憲に寄せる限りない敬愛に満ち満ちているからだ。そして、これは米沢というリージョナルな地から見た、それでいて壮大な歴史小説だ。上巻のハイライトは、やはり治憲、当綱主従と七重臣との対決の場面だろう。実に見事だと思う。しかし、それはまた同時に危うさをも内包していた。政治的果断は常に諸刃の剣なのだから。それにしても、登場する人物たちそれぞれを活写する筆が冴える。
2015/12/28
とん大西
上杉鷹山…名君も最初から名君ではなかった。時代は10代将軍家治の明和の頃。元禄・享保は遥か昔。直江兼続が名を馳せた世はそのまた昔々。が、宿命的な困窮はその時が境だったか。百年以上、米沢藩に巣食う「貧」という病。飢饉、災害、天下普請。物入りなれど金がない。貧しいのは民だけじゃない。政を顧みず遊び呆ける前藩主、独断専行で私服を肥やす宰相、旧弊にしがみつく老臣達。皆々、可愛いのは我が身のみ。退廃的な日常は心ある者の心も蝕む。あぁ、膨れ上がる借財。あぁ、貧すれば鈍する。そして鷹山起つ、若輩の謗りをものともせず。
2023/05/07
goro@80.7
短編「幻にあらず」で描いた困窮に喘ぐ米沢藩の若き藩主をさらに深く追ったと思われる藤沢最後となった作品。半知となったにも関わらず大藩であったことが忘れられず米沢へ移封となった上杉家。暗愚の藩主を隠居に持ち込むも先行きが見えない中、年若い養嗣子直丸を藩主に据える。倹約を旨と改革を行うのだが、格式に囚われる老臣たち。鷹山の足取りを克明に描く上巻。果たして改革は成せるのか下巻へ。
2022/01/20
nakanaka
米沢藩九代目藩主・上杉鷹山の生涯を描いた作品であり、藤沢周平最後の作品。上杉鷹山(治憲)と彼を支える竹俣当綱を中心に、藩の再生に奔走する様が活き活きと描かれています。上杉鷹山と藤沢周平。我が山形県の二大スターの共演といったところでしょうか。作者の思い入れも一入だったように感じられます。郷土の偉人とはいうものの詳細までは知らなかったので良い機会になりました。下巻へ。
2022/06/22
優希
藤沢さん最後の作品になります。貧困にあえぐ米沢藩が舞台。藩政の立て直しに心血がそそがれるのがしみじみします。人々が幸せな日々を過ごせることが政治と言えるのかもしれません。当時の様子を美しく蘇らせているように思えました。下巻も読みます。
2023/02/09
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