岬 (文春文庫 な 4-1)
岬 (文春文庫 な 4-1) / 感想・レビュー
ミカママ
未読だったのが不思議なほど、しっくりくる作品でした。全体を覆う静けさと湿っぽさ。きれいごとだけでは済まされない、日々の暮らし。作品を読んだだけでは理解しづらい部分もあるので、作者のバックグラウンドを予習してから読まれたほうがいいかも知れません。
2017/03/31
ヴェネツィア
1975年下半期芥川賞受賞作。都会的という言葉や洗練という言葉からは、甚だしく遠い小説。物語の世界は和歌山県最南部の東牟婁地域で展開するが、そこは小説が書かれた時よりもさらに時代を遡ったかのような地だ。血縁が濃密に絡まり合い、読者にもそうした閉塞感はひしひしと伝わってくる。「血」がいわば、この小説のキーコードであり、それだけに誰もがそこから逃れることはできない。ことに若い主人公の秋幸にとってはそうだ。この作品は登場人物同志の関係が実に複雑を極め、読者をも困惑させる。それもまた作家の作意なのだろう。
2014/01/27
遥かなる想い
第74回(1975年)芥川賞。 土方として生きる秋幸の周辺が 発する血の匂いが印象的な作品である。 自分の境遇に対する 諦めにも似た 怒りの 感情が凄まじい。 剥き出しにされる血の業が ひどく エネルギーに溢れた 粗暴な描写が 印象的な作品だった。
2017/10/03
absinthe
小説の力。ド底辺家族とその周辺。父親の異常な女好きのせいで、登場人物の血縁からして異常なのだが。殺人ありの自殺未遂ありの、これでもかと目茶苦茶ぶりが増していく。秋幸のやり場のない怒りと鬱屈。体にこびりついた鬱憤を振り払おうと仕事に打ち込んでいるのだが。この境遇の元凶となった親への腹いせに、禁忌を犯すのだが。といってもそこは人間。一つの感情に突き動かされ最後までとはいかず、心のあちこちに迷いがある。
2023/10/14
NAO
再読。紀州の、「路地」と呼ばれるところに住む、母親を中心とした奇妙なつながりの一族。中上健次が描く「路地」は新宮市の部落地区をモデルにした架空の町で、そこには、なんとも言えない重苦しく、濃厚な空気が漂っている。身体だけが資本の、本能のままに生きているかのような男たち。女たちも、男たちに負けないぐらい本能的で土着性が強い。独特の筆致が、この世界をさらに印象的なものにしている。『黄金比の朝』『火宅』『浄徳寺ツアー』も、同じ世界観の話。中でも、『火宅』がすさまじい。
2019/08/30
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