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帰れぬ人びと (文春文庫 さ 21-1)

帰れぬ人びと (文春文庫 さ 21-1)

帰れぬ人びと (文春文庫 さ 21-1)

作家
鷺沢萠
出版社
文藝春秋
発売日
1992-10-01
ISBN
9784167266028
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帰れぬ人びと (文春文庫 さ 21-1) / 感想・レビュー

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ミカママ

鷺沢萌さん、リアルタイムで読んでいた。わたしの中で彼女は「在日文学」に括っていたのだが、それが大きな間違いだということに気づいた…閑話休題。デビュー作を冒頭に、男性目線で「羽田」を舞台に繰り広げられた4つの中短編。今でこそ空港だが、わたしの元同僚も羽田で生まれ育った、と言ってたな。主人公は故郷(帰るべきところ?)を持たず、挫折の影を引きずって生きる若者。その儚さが読者を惹き寄せて離さない。こんな作品をハタチそこそこの小娘が書いちゃってたんですぜ。そりゃ生き急ぎたくもなるってもんだわ。

2023/11/23

ヴェネツィア

文学界新人賞受賞作「川べりの道」と芥川賞候補作「帰れぬ人びと」を含む4つの短篇を収録。集中の「川べりの道」は高校3年生の時の作であり、「帰れぬ人びと」にしても弱冠20歳の時の作品。4篇ともに完成度はいたって高く、初期作品であることの未熟さは全く感じられず、むしろ瑞々しさこそが際立つ。また、これらの作品群は共通してエンターテインメント小説からは限りなく遠い所に位置するが、小説空間は鮮やかに自立する。「おはなし」という意味でのプロットの完結性はなく、そのことこそが小説をまさに小説として屹立させているのである。

2018/01/14

エドワード

父の事業が破綻し、家を追われた家族。その家を騙し取った家族もまたその家を追われた。帰れる家がある人間と、ない人間。寂寞とした人生の哀しみが漂う「帰れぬ人びと」。隅田川の東の町の幼稚園が、夜は貧しい子供たちの学習塾に変わる。蒲田の飲み屋、鵜の木の父の家。この辺りに目蒲線という緑色の電車が走っていた時代、鷺沢萌さんは才色兼備の若い女性作家としてマスコミに出ていたことを思い出す。彼女の描く、灰色の空に覆われた、地味で退屈な東京のリアルが新鮮だった。隅田川の東の町にスカイツリーがそびえていることを彼女は知らない。

2015/07/20

June

全ての編で町を描いていると思った。解説では、町の色や匂いだと言っている。「川べりの道」複雑な家庭環境にある少年を描いたものだが、とても十代でのデビュー作とは思えない。 「帰れぬ人びと」再会しては気まずいはずの二人が出会ってしまい、いつの間にか惹かれ合う。不思議なもので、子供の頃過ごした家族との幸せな時間が、その人の故郷であり、自分の帰るべき場所であると無意識のうちに刷り込まれている。新しい家族を築いても、人は過去の幻影を追いかけ続けているのかも。鷺沢さんの危うさに気付いているような解説が興味深い。

2018/06/09

mt

高校生が書いた小説など普段は敬遠してしまうのだが、不思議と鷺沢氏の作品はどこか引っかかるところがあったのだろう、数冊読んでいる。数十年ぶりに読んだ「川べりの道」は、相変わらず、様々に変化する風景の描写が魅力的だし、大学生のときの作品「帰れぬ人びと」は創作であろうが、非の打ち所のない優等生的な出来で、抑えて派手さがない書き方を、当時の歳でできていることに驚く。本格的な文学作家と囃し立てられ、そのあとは苦しかったのかも知れない。

2016/06/06

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