水底の祭り (文春文庫 440-1)
水底の祭り (文春文庫 440-1) / 感想・レビュー
shizuka
『蝶』よりはぐっと普通よりの少しホラーで少しミステリーな短編集。人間が生まれついたときから持っている「業」は、どんなに善人になろうとしても、ふとした時に鎌首もたげてくる。隙あらば出し抜いて、ヤツに復讐したいとか、痛い目見せたいとかそんな話が多かった。幼い頃の辛い経験や虐げられた記憶が腹の底でじんわり時機到来を待っている。だが本人はそんなこと全然きづいていない。けれど何かしらの出来事でスイッチが入ってしまう。その瞬間からの思考と気持ちの変わる様がリアルに書かれている。薄ら怖い。そう、まるでタイトルのように。
2016/12/10
エドワード
人には、暗い情念というものがある。平凡な毎日を送る中で、ふと蘇る、記憶のかけら。たびたび描かれる、戦時中の疎開生活と、戦後の価値観の混乱。湖の底から上がった屍蠟死体に怯える男「水底の祭り」。ロンドン滞在の兄と、旅行添乗員の弟がかつて体験した悪夢「鎖と罠」。演劇、バレエ、実力とは何か、名声とは何か。夢を追い求めるうちに、道を見失っていく人々「紅い弔旗」「鏡の国への招待」。「牡鹿の首」の、剥製師の女性、麻緒に唯一強い生きる力を感じる。皆川博子さんのごく初期の、まさにめくるめくバロック真珠のような短編集だ。
2017/11/08
秋良
勝手に湖を舞台にした連作短編かと思ってたら違った。もう少し幻想的な方が好きだったかな。
2017/02/11
リオ
どれも舞台劇の様な物語 不思議な静謐さと退廃の物語たちでした
2020/12/13
rinakko
男から性を買う女性剥製師、勢いを失ったミュージカル・グループ、堕ちていく偶像。とぐろを巻いた、血なまぐさい妄執。どの作品の中にも、あらがい難い退廃の空気を嗅ぎ取ってしまう。そして、ずくずくと果実が爛熟して、ゆっくりと腐敗していく姿をまざまざと見せつけられているような落ち着かなさ。それなのに、目を逸らせなくなるほどに、悪魔的な魅力に捕り込まれてしまう。それで思惑通りなのだけれども…。
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