光の廃墟 (文春文庫 み 13-6)
光の廃墟 (文春文庫 み 13-6) / 感想・レビュー
hit4papa
1966年のイスラエルを舞台にした殺人ミステリです。紀元73年のユダヤ戦争でローマ軍により陥落させられたマサダ城址。物語はここを中心に展開するのですが、歴史的な背景を知らないと味わいは半減してしまうでしょう。登場人物それぞれの愛憎が複雑に絡み合って、事件は成り立っています。ピタゴラスイッチのように物事が動いていくのですが、ヒントはあるもののからくりが分かるまで謎は解けません(とはいえ、ハラハラドキドキは希薄です)。ただ、伏線は回収されていないし、ゴシック・ロマンっていう本作品に対する煽り文句はないなあ。
2019/08/05
キムチ
40年あまり前の作品であり、筆者の年齢(S5生)を考えると畏敬の念すら覚える文体と内容だ。とはいえ、最近続いた翻訳ものに比べれば、はるかに読み易く、日本人的心の汲み取りを感じる。舞台はイスラエル。ミステリー展開の様相を持ちつつも叙述的なロマンが展開。お互いに屈折した感情を抱いてきた義弟と明子。何らかの事件に巻き込まれ誤って同僚をあやめた責任を取って自死した隼雄の生きた空気を少しでも吸いたいと迫る彼女。ミシャとロバートの成り行きが後半は前面に出てきた事で些かロマンよりミステリーにベクトルが傾いていったが。
2014/03/24
*maru*
1965年、イスラエルのマサダ遺跡で発掘作業に携わっていた高村隼雄が仲間を殺し自殺した。遺体を引き取りにやってきた姉の明子は真相を探るため志願隊に入り込むが…。手の届く距離にいながら分かり合えなかった心の痛み。隼雄にとって生きるとは贖罪でしかなかったのか。残酷な生の苦しみに付きまとう死の誘惑。身動ぎもできない程の息苦しさを感じながらも物語から逃れられず正常な判断力さえ奪われる。皆川氏の作品はやはり私の全神経を麻痺させるのだ。二十年前の日本と二千年前のイスラエルの悲劇。今作も深い余韻に浸ることになるだろう。
2016/10/03
エドワード
「マサダの砦」をご存知だろうか。ユダヤ人がローマ軍に襲われ、集団自決した城址だ。紀元73年、ユダヤ人の流亡はこの時から始まった。1965年、死海に臨む岩山であるマサダ遺跡発掘隊で二人の隊員が謎の死をとげる。一人は日本人。姉の明子が遺骨の引取りにイスラエルを訪れる所から始まる、現代と古代を結ぶ物語。行方不明の弟のノート。様々な国籍の、一癖も二癖もある第10テントの面々。不審な自動車事故と女性隊員の死。疑心暗鬼に襲われる隊員たち。ノートの謎が解かれた時、古代ユダヤと現代日本がつながる点が興味深い。
2014/02/03
有理数
イスラエルのマサダ遺跡発掘隊に参加していた弟が突如自殺。その真相を確かめるべく姉・明子が単身イスラエルへ向かう。情けないことにイスラエルの印象は大まかな宗教史や世界遺産の景観といったものしかない。この物語で紡がれるのは、そんな上辺だけの知識に打撃を与える惨劇の一部始終と、惨劇の歴史によって揺れ動かされた甘美な魂たちの記録である。惨劇の向こう側に照射される生。結末がややあっさりな感触はあったが、イスラエルという大地だからこそ成し得た、為さねばならなかった犯罪と動機が極めて印象的。面白かったです。
2016/01/13
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