伯林蝋人形館 (文春文庫 み 13-9)
伯林蝋人形館 (文春文庫 み 13-9) / 感想・レビュー
nobby
あー、久しぶりに味わう皆川さんな耽美な世界!『開かせていただきー』で描かれた18世紀ロンドンに代わる今作の舞台は第一次世界大戦前後の質実剛健なドイツ。6つの章に人物名が当てられ、書体変えて短編と作者略歴が並べられている。正直、最初は古典的で幻想的な文体に戸惑い、どうもうまくからみ合わずズレが歯痒く首をかしげるばかり…ようやく数人の目線で重なり出す中盤から、脳内整理が進み、最終章で納得。そして時系列繋がる解説でスッキリ!なるほどA**に始まりZ**へ至る。ピュアなメッセージ素晴らしい!
2017/07/15
HANA
大戦間で混迷を極めるワイマール共和国。そこを舞台にした六つの短編で構成されたアンソロジー。という体なのだが、小説部分で書かれた面が著者来歴ではまた違った面を明らかにし、それがさらに別の著者の視点では違った様相を呈し、と入れ子構造の複雑さが只事ではない。と同時に徐々に明らかになっていく人間関係の様子に目が離せなくなる。この書物が誰によって書かれたかは明らかにされるのだが、混迷の様子も全て著者とその人物の手の中で踊らされた気分。人間関係まで幻想の中の出来事みたいで、熱に浮かされているような読み心地でした。
2022/12/31
ももっち
死の泉、薔薇密室に続けて読んだ本作。これも圧巻としか言えない素晴らしさ!第1次世界大戦後のドイツ。混迷と頽廃と荒廃が渦巻く灰色の重い世相の中で、アントゥールという青年を巡り紡がれる夢と現の交錯の物語。ボレロの演奏のように繰り返される主旋律に少しずつ加わっていく楽器のような新たな視点。霧の中に朧気に見える姿が次第に顕われる。目を凝らす私は、薬物のもたらす恍惚に、ヨハンの美しい詩が醸す酩酊に、過酷な時代への絶望に溺れ沈んでいくのだ。蝋人形に、愛しい者達の刹那を残し、紡ぐ物語に満たされぬ想いを込める。ああ最高!
2017/07/03
優希
第一次世界大戦後、1920年代のドイツが舞台の幻想的な短編集でした。短編の形式で6人の男女の運命が交錯していく様子を描いています。短編と作者の語りが交互に出てきますが、物語を読み進めていくうちに全貌が明らかになっていくのが興味深いところです。視点の変わった小説となることによって見える幻影は、現実との境界が曖昧となり壊れていくように感じられました。危うくて汚らわしい匂いを発しながらもどの場面を切り取っても美しさがあります。虚偽と残酷さのめぐりめく世界が冷たい美を醸し出していました。
2014/10/06
アマニョッキ
大好きな読友さんお薦めの本書。皆川さんの作品は本当に美しい。夢と現をさまよいながら幻惑的な世界へいざなう手法はまるで麻薬のようです。作品のなかで飲み物に阿片チンキを滴すシーンがあるのですが、私も皆川さんという阿片チンキにすっかりやられてしまったようです。心地のいい混乱をもたらしてくれる一冊でした。
2016/10/11
感想・レビューをもっと見る