尋ね人の時間 (文春文庫 あ 21-1)
尋ね人の時間 (文春文庫 あ 21-1) / 感想・レビュー
遥かなる想い
第99回(1988年)芥川賞。 妻カオルと別れた神島の日々を 抑えた筆致で 描く。カメラマンとして 生きた山田と 神島の女性観が 興味深い。 現代を生きる人間が抱える 不安定な 問題を モデル圭子との関わりを通して 描く…将来の日本の家族解体を予感させるよう、そんな印象の作品だった。
2017/12/09
kaizen@名古屋de朝活読書会
芥川賞】写真家、山田と神島。娘の月子。同梱の「水母(くらげ)」が面白い。「「あとがき」にかえて、グリムと夢二とホックニー」で消しゴムの話がある。NHKのラジオで「尋ね人の時間」というのがあったそうだ。表紙のエッチングがホックニー
2014/02/03
ヴェネツィア
1988年上半期芥川賞受賞作。それぞれの場面は鮮明でありながら、統体としては夢の連鎖であるかのような印象を受ける。月子のイメージなどはことにそうだ。また、それはあえてそのように書いているのだが、登場人物同志の関係性も極めて儚く、主人公は敢えて孤独を選ぶ。ただ、主人公の神島をあえて性的不能に設定するのは、そうした構図と、物語の構想が顕わ過ぎて感心しない。なお、選考委員の吉行淳之介も指摘しているが、神島のもとを去っていった妻のカオルが新たに選んだ男は、「文学」の対極にあるようで、たしかに笑ってしまいそうだ。
2013/11/22
かみぶくろ
3.8/5.0 三十年以上前の作品なのに現代性を感じる。虚しさにとらわれた都会人の断片的記録。通俗的な作風だがときおり嘆息するようなエピソードが出てくる。とりわけ井戸の記憶の描写と、一歩進んで二歩下がるリゴドン踊りのくだりが素晴らしい。ただ、最後のモテエピソードだけはなんか鼻白んでしまった。全体的には、読みやすさもありながら、ときに人生の深淵が垣間見えるような、良質な作品だと思いました。
2024/03/11
hit4papa
ミュージシャンらしい詩的な文学作品です。生きる事に前向きではないカメラマン、彼の崩壊した家族、その周辺が描かれた二編です。主人公は性的不能者という設定ですが、下世話なものではなく、男性の繊細さが哀しみをともなっています。タイトル作は、別れた妻と娘との今、甦る死別した妹とのひととき、好意をもってくれている女性との距離を置かねばならない関係など、淡々と語られています。会話のやり取りにも、主人公の感情は、湿り気を帯びません。その乾いた心のうちだからこそ、余計に詩的な美しさを感じてしまうように思えます。【芥川賞】
2018/01/08
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