楽しい終末 (文春文庫 い 30-3)
楽しい終末 (文春文庫 い 30-3) / 感想・レビュー
翔亀
真剣な終末論。人類は明日かもしれない近い将来に絶滅する、確実にその道を歩んでいるのか、そんな筈はないと否定のための確認を行う。その思考は、原爆と原子力発電(福島原発の炉心融解の予言も)から始められ、絶滅させられた民族とアメリカン・インディアン、絶滅した恐竜に思いを馳せ、エイズは一つの病気としながらもそこに終末論的性格を探り、フロンと熱帯雨林の消滅と地球温暖化に、そして進化論に及ぶ。こうした科学論に重ねて、J・M・バラードなど終末文学、ポル・ポトを生んだ政治、さらに進歩史観など思想史まで検証される。↓
2016/04/23
背番号10@せばてん。
【1994_伊藤整文学賞】1997年3月24日読了。─── もしも明日世界が滅びるとしたら、今日君はリンゴの木を植えるだろうか?(2019年9月14日入力)
1997/03/24
眠る山猫屋
再読。まるで預言書のよう。二十年前の著作なのに、福島原発の話など背筋が凍りつくようだった。まぁ当時からタービンファンが折れてもげる事故を14時間も放置するなど、管理体制はズサンだったわけだが。温暖化や南北問題、人類のこれからの道のりを思うと絶望でいっぱい。くらくらする。なんとかしなければという気持ちの空回り、また、草の根運動の無力感には、心が折れる思いだ。それでも読むべきだと思うのは、問題に真摯に向き合う姿勢を学べるからだ。
2016/03/04
shishi
[A]世に蔓延る「終末論」に関する論考。池澤夏樹の思想的集大成といってもいいかもしれない。学術書のように論理だけではなく、宗教や小説で描かれた情景を取り込み、小説家らしい柔軟さ、有機的なつながりのある文章で「終末」という切り口で現代という時代・人類・文明を論じる。「わが友ニコライ」の章が大変に面白かった。知れば知るほど終末を避けられそうにない現代の問題としての切実さと、作家としての人格を懸けて書いた作家個人としての切実さがあった。僕にとっても池澤夏樹という個性をどう考えるかという意味で切実な本。
2012/12/20
bfish
様々な要因から人類の終末について考察する評論集。不適切な言い方かもしれないが、1993年時点の作品なのに核=原子力のリスクが詳細に書かれ、現実がその危惧どおりの展開になっていることに驚く。そしてまた再稼動の流れになっていることに慄く。まさに指摘されている通り、人は一旦核を手にしたらそこから逃れることは出来ないのかもしれない。まさかその地が日本であったことは池澤さんも想像出来なかっただろう。参考文献の多さに池澤さんの博学振りが伺えます。タイトルとは逆に少々重い一冊でした。
2015/01/29
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