花を運ぶ妹 (文春文庫 い 30-6)
花を運ぶ妹 (文春文庫 い 30-6) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
限りなくアジア(最も多くページが割かれるのはバリ)に沈潜してゆく物語。カヲルと、その兄である哲郎の手記が交互に配される構成をとるが、そこで目につくのが人称代名詞だ。カヲルの手記は一貫して「わたし」なのだが、哲郎のそれは二人称の「おまえ」である。最終章において「ぼく」と語られるのを除いては。そう、これはまさに哲郎の再生の物語なのだ。そこにカヲルの「妹の力」は確かに関与するものの、本質的には「水のアジア」による自己探求と救済の物語なのだろう。そして、その背後にはずっと圧倒的なバリの自然と濃密な闇が横たわる。
2017/03/30
ミカママ
ヨーロッパが石ならば、アジアは水。舞台がパリからバリ(言葉遊びのよう)へ移動して、その匂いたつような景色に圧倒される。霊的というか、宗教的というか、要は人の運命を押し伏せてしまうようなモノの存在と、哲郎の再生。この作品を読んでしまうと、ほかの似たような作風の作家さんはやっぱりまねっこでしかないなぁ、などと不遜なことを考えてしまう。
2017/04/30
NAO
バリ島に大量の麻薬を持ち込んだ現行犯として逮捕された兄を助けるべく奔走するカヲルを描く章「カヲル」が奇数章に、兄哲郎が今までの生きざまを独白する章「哲郎」を偶数章に描いた作品。哲郎とカヲルは、二人とも苦悩のただ中にいてそこから脱出しようとしている。二人が立ち直るきっかけが、純粋にアジア的なバリという島で、その住民たちの「生」の息吹に触れ合い、ただ「見る」だけでなく「触れ」たり「聴い」たりして彼らの息吹を「感じる」ことに、兄弟はともに救いの道を見いだしたことが、純粋に嬉しい。
2024/06/17
キムチ
インドネシア、バリの濃密な雰囲気は友達の間でも有名。行かずしてもこのレトリックスタイルの小説には圧倒された。読み友さんレビューに惹かれ、読んだお初作家。カヲル、哲郎の章が2ビートで打ち鳴らすリズムにすぐ入り込める~妹は現実の生への闘い、兄は過去を思い巡らせ、自己再生への想い。温度差が見事。兄の語りは私⇒おまえ、最後に僕⇒あなたとなる。作者の分身が語りかけてくるかのようで そこには性欲、画欲❓本能が生臭く立ち込めている。妹の東奔西走で兄が囮捜査に嵌った事が解決されるのはいささかご都合?でもラストは見事。
2017/04/12
KEI
ヘロイン中毒となりバリで逮捕された画家・哲郎と兄を助けようとする妹・カヲルの手記。兄は牢の中で過去を省み「おまえは」と言う表現で自分を語る。妹の奔走、兄を思う気持ちは、舞台のバリさえ疎ましく痛々しい。ヘロインの誘惑に負ける様子、無機質になる様な快感、禁断症状の凄まじさに驚いた。事件解決はあっけなかったが、バリの濃厚な湿度や闘い続ける神々との暮らす人々の姿に魅せられた。兄も妹も彼の地で再生出来たのだな。密度の高い世界に入り込んだ読後感。
2017/06/08
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