ヴェネツィアの宿 (文春文庫 す 8-2)
ヴェネツィアの宿 (文春文庫 す 8-2) / 感想・レビュー
mukimi
私が理想の文章と心酔している福岡伸一先生が絶賛していた須賀敦子氏。背景も知らぬまま手に取り読み始めた。読みながら祖父母世代の富裕層で海外で長く暮らし晩年に多くの名随筆を遺した女性であることを知る。地に足のついた精緻な文章の背後に流れる感傷、私のような若造には軽々しくレビューできない、喪失を通過した大人の文章。福岡先生の文章と通じる文学性。人間の限りある時間と肉体では果たしきれない夢や希望にこそ人生の美しさが宿り、記憶や遺産の尊さが際立つ。亡くなった人々の分も今現在を尊び生きたいと静謐な想いで読了。
2024/01/28
はたっぴ
須賀さんが自ら「書けて良かった」と言う四作品の一つ。ここでは家族と夫、留学先での交友が描かれており、ずっしりと重く胸に響くものだった。ヴェネツィアの宿で、窓の外から聞こえてくる夜の歌劇に紛れて、亡き父を複雑な心境で思い出す表題作から、父の死に際を描く最終章まで、ルーツを辿るように数々のエピソードが盛り込まれる。迷路のような寄宿舎生活、欧州人との思考の相違に戸惑う留学生活についても美文で語られ、著者の生き様が言葉に宿り作品の隅々にまで浸透している。どれほど時間が経っても瑞々しく感じられる稀有な一冊だと思う。
2016/09/18
のぶ
名エッセイだと思った。文庫の初版が1998年、その後、版を重ねて現在も読み継がれているのがその証だと思う。本人がイタリア文学者で翻訳家だったこともあり、軽くはないが、非常にしっかりした文章で、国の内外で自身の経験した体験や、家族との交流が綴られている。表題作はタイトルの通りヴェネチアでの思い出を語ったものだが、そのほか様々な場所での12の話が集められている。芯の通った充実した内容の一冊だった。
2017/02/23
kaoru
須賀さんの半生が語られた随筆集。戦時下に青春を過ごしキリスト教を生きる糧とした須賀さんの歩み。若い時代の父母の不仲、フランスでの寄宿生活やイタリアでの日々。寄宿舎でイタリア語を教えてくれたドイツ人カティアや夫の死後支えてくれたカロラとは年月をはさんで再会する。両親や親戚の出自と思い出が詳細に語られるかと思えば、イタリアでの夫ペッピーノとの幸せな結婚生活が過ぎ去った儚い夢のように綴られる。関西の豊かな家庭に育ちながら日本を離れ、ヨーロッパ的教養を身につけた稀に見る女性が辿った人生の喜びや哀しさが読むこちら→
2021/02/24
Gotoran
家族のこと、フランス・イタリア生活での出来事、出会った人々との思い出(エピソード)を静謐かつ美しい文章で綴った珠玉の12編のエッセイ。一生懸命、自分の生き方・在り方を模索しつつ真摯に生きてきた須賀氏の強い意志力と向上心が伝わってきた。「ヴェネツィアの宿」の屋根裏部屋から想いを馳せた父と母、そして父の愛人。幼年期の思い出。寄宿学校時代。疎開時の伯母の屋敷でのこと。・・圧巻は、最後の3編「旅のむこう」(母のこと)、「アスフォデロの野をわたって」(夫のこと)、「オリエント・エクスプレス」(父のこと)。
2014/11/23
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