地を這う虫 (文春文庫 た 39-1)
地を這う虫 (文春文庫 た 39-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
4つの短篇を収録。主人公はいずれも元刑事。最初の1話は定年退職だが、他の3話はそれぞれの事情から刑事を辞めて、新たな職場で働いている。これらは、個々の人物たちの物語ではあるが、同時に警察という組織を別の角度から眺める物語でもある。警察機構が特殊な構造を持ち、独特の論理で動いていることを、高村は作家的慧眼で描いてゆく。いずれの物語もある種の悲哀を帯びるが、あるいはそれは警察に限るものではないかもしれない。篇中では、表題作よりも「愁訴の花」が秀逸。あるいは「巡り逢う人びと」の哀しみをとる。
2018/09/13
KAZOO
再読です。単行本で読んだときには短編5作が収められていたと思うのですが、やはり高村さん、文庫化するときにはかなり改定しておられ4作になっています。すべて元警察官(刑事)であった人物が、警備員、サラ金の取立てや、議員の運転手、守衛などの職業についているのですが刑事であったときの矜持を忘れずに以前の事件の核心に迫るというものです。最近の高村さんの小説は長編が多く、その人物についての周りから見た解説の様なものが多いのですがこのような短編の方が物語としては楽しめるような気がしました。
2023/06/06
修一朗
久々の高村薫さん。短編集でも硬質かつ緻密で胃もたれするような重い文章が大好きで、しばし没入。今回描かれるのも不器用な生き方しかできない男たちだ。元刑事で、今は違う仕事に就いているのに「昔」が抜けない男たち。地どり一筋の刑事人生を虫になぞらえ、人に認められずとも自分の行動にささやかながら達成感を噛み締める「地を這う虫」がお気に入り。マイランキング1)地を這う虫2)父が来た道3)愁訴の花4)巡り会う人びと
2014/12/27
鳳
深いい話の短編でした。元警察官の男たちのやるせない人間ドラマが、ジワジワと迫ってくる。警察を負われても、決して敗れざる人たちではないと思います。「地を這う虫」の省三さんには胸を熱くさせられました。
2016/04/25
エドワード
警備員、マチ金、運転手。刑事がそれぞれの事情で転職した人生を描く四編。「父が来た道」は、政界の大物の運転手になる男の物語。<官庁と業界と政治家の寄せ鍋は、慣行と恩義と金のダシで煮る>市井の生活とは全くかけ離れた世界。元刑事として警察とつながり、それを織込み済みで彼を雇う主人。彼は同じ寄せ鍋に身を投じた父を思う。「地を這う虫」は、ひたすら観察眼を鍛えた警備員がある事件に遭遇する物語。毎日歩く街の情報を全て把握している彼は<まるで住民台帳ですな>。どちらも、サスペンスの最後に訪れる一瞬に救われる傑作だ。
2014/02/01
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