龍宮 (文春文庫)
龍宮 (文春文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
奇妙な味わいの作品が表題作を含めて8篇。初出誌のほとんどは「文学界」。系列からすれば、芥川賞受賞作の「蛇を踏む」に繋がる作品群だが、もう少し軽いか。「シュールな香りのするフォークロア」といった趣きだ。ただし、それは自己自身を、あるいは自己を含んだ外的世界を脅かすものではない。ここには不条理はないのだ。それが言い過ぎであるならば、あったとしても軽妙な可笑しさの中に消えていくような種類のそれだ。また、ある意味で、小説世界の自律性が高いがゆえに、読み終わった後には何も残らないということにもなりかねない。
2015/01/13
さてさて
『めんどうくさくなると、正太はいつもケーンと鳴くのだ』、『食べるときに、私は箸も使うが、てのひらも鉤爪も活用するのである』、そして『おれはその昔蛸であった。蛸の大冒険の話をしてやろう』と、登場人物が人のようでいて、人ではないという何とも摩訶不思議な世界観に包まれたこの作品。この世のことであるようで、この世のことでない独特な世界観の中に親が子を見る感情など、人の心を感じさせるこの作品。一見捉えようのない物語世界に、どこか寂しく、どこか虚しく、そしてどこか哀しい人の世の移ろいを感じた不思議感溢れる作品でした。
2021/12/01
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
いかにも川上さんらしい、何処かで聞いたような、何処にもないような8編の幻想譚。 最初の「北斎」の女をいいようにしてお金をせびる蛸男が嫌で、どうかな?と思ったが、一話読む毎に好きになっていった。 正太老人と一緒に稲荷寿司を食べてケーンと鳴き、うごろもちに拾われて細々と世話を焼かれたい。 先祖に恋をする二百歳の私の「島崎」が一番好きかな。 どこか淫蕩で少しくらくてなんだか怖いけど癖になる、なんだか好きなお話たちでした。
2018/05/23
モルク
人ではないが、人に近い異形のものたち。人間に紛れて暮らしているが何百年と生きている。8つの短編集であり、どれもとらえどころがないが、どこかもの悲しく、また妖しいそして時には滑稽でもある。あれよあれよという間にその世界に引きずり込まれていった。いい加減な蛸男の「北斎」、姉たちの間を渡り歩く「轟」が好みではあるが、中でも7代前の御先祖に一目惚れし欲情する「島崎」がお気に入り。
2019/11/19
buchipanda3
異形の者と人間の交わりを綴った幻想譚8篇。これは何とも独特な味わいだ。アクの強いおとぎ噺を読んでいるかのようで、その文章と物語の世界観にいい感じで泥酔した。異形の者が語る道理は人間の視点を超越しており、そこから世俗にまみれた人間性に対する皮肉めいた描写が錯綜する。説教くさいものではなく、むしろユーモラスに満ちた軽妙さがあり、本能的な下卑さが散りばめられ、哀切的な余韻を残すという物語性に溢れていた。冒険話の蛸くずれ中年男、シュッと威嚇するイト、ケーン正太などなど目を引く異形のものたちでいっぱいの作品。
2019/10/14
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