余寒の雪 (文春文庫 う 11-4)
余寒の雪 (文春文庫 う 11-4) / 感想・レビュー
あすなろ
余寒の雪、なごり雪。春が来た中、三寒四温で春を感じたり、冬を感じたりしている今日この頃に読むには最適の作品だったと感じる。短編集なのだが、梅匂うと余寒の雪が良かったかな?人には、誰しもどんな時代でも、一つ二つ、人生を賭する時ある。または、転機がある。そんなことを感じ入る作品集。余寒の雪のラストシーンで、主人公の知佐の真剣勝負と心情の描写は好きだ。
2016/03/25
chimako
どの短編も正に珠玉。美しい言葉で描かれる江戸時代の人々の暮し。そこにある想い。恨みも憎しみもある。が、誰かを愛しく思う、懐かしく思う、すまなかったと後悔する、幸せを願う。他人としての当たり前の気持ちが読みやすい筆で描かれる。なんともしっとりとした読後感である。作者のあとがきにあるように試験的な作も含まれるようだが、宇江佐真理さんならではの物語が7編。「あさきゆめみし」「藤尾の局」と表題作「余寒の雪」が好み。頼りない弟が大人になる瞬間、大奥のお局様だったんだ義母の啖呵、女剣士の女心。早世が悔やまれる。
2017/01/29
ふじさん
女剣士を目指す千佐を早く嫁に出したいと願う両親は、強引に町役人と祝言を上げさせようとするが…。幼子とのぎこちない交流を通して大人の女へと成長する姿を描いた表題作「余寒の雪」初め、「紫陽花」の内儀のお直、「あさきゆめみし」の女浄瑠璃語りの竹本京駒、「藤尾の局」の後添えのお梅、「梅匂う」の女力持ちの大滝太夫等、女の登場人物が個性的で魅力的だ。「蝦夷松前異聞」は、実在の人物と虚構の人物が入り交じり、少し違和感あり。筆致にまだ硬さが見られるが、市井の人々の姿を巧みに描かれており楽しませて貰った。
2024/01/07
じいじ
どれも趣のある7編の短篇集。最終【余寒の雪】の温かい余韻を残した読み心地で読了した。女だてらに剣術の修業に励む二十歳の知佐と妻に先立たれて一人息子と暮らす同心との再婚縁談話。嫁ぐ気などなかった知佐の心変化が、微笑ましく可愛い。女房を亡くし商売に精を出す男と女力持ち芸人との哀歓漂う話も楽しめる【梅匂う】。女の嫉妬がいじらしい【紫陽花】。私は【藤尾の局】が好きだ。55歳の主と39歳の後妻お梅の話。前妻のドラ息子の暴力を円満に収めようと苦慮するお梅、二人の改心と和解を温かい筆致で描いた人情味あふれる物語です。
2016/04/16
ミカママ
まずはタイトルが秀逸。表紙もイイ!短編集なので、中には史実を基に書かれた作品など、よみづらいものもあったけど、個人的には『紫陽花』と『梅匂う』が好き。「旦那、最後に口をね、口をぎゅっと吸って。息ができなくなるほど」(梅匂う、より)。そうか、当時はKissという言葉がなかったんだよなぁ、なんて、ね。読んでいるあいだ、すっかり主人公たちになり切れる私には、時代モノは現実逃避(ただいま、日曜の夜・・・)にぴったり、でした。
2014/12/01
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