M (文春文庫 は 25-2)
M (文春文庫 は 25-2) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
4つの短篇を収録。端的にいえばポルノグラフィーだ。全4篇に共通するのは、妄想とアブノーマル。クライム・ノヴェルの作家らしく都市と暴力の気配も随所に漂う。男性と女性を主人公にしたものが2篇ずつ。男性編がより妄想度が強く、一方の女性編はより受動的である。すなわち、典型的な男性作家の視点からの官能小説ということになる。ただ、官能シーンそのものは道具立てといい、シチュエーションといい、さほどに目新しいものでもないし、また筆致にもとりわけての斬新さはない。元来ノワールには、暴力とセックスは親和性を持っていた。
2019/09/20
hit4papa
衝撃的とも言えるグロテスクな作品集。微に入り細を穿つ性的で暴力的な表現に、気持ちがささくれだちます。ここから入ると著者の作品を読むのを止めてしまいそう。妻の妹への歯止めが効かない思い「眩暈」は、酷似した女性をAVを観て妄想爆発で精神が歪んでいく様に痛々しさを感じます。幼馴染の父親への思慕がつのる女性「人形」は、ぐちゃっとした人間関係に嫌悪感が。出会い系で転落していく主婦「声」は、子供の虐めの顛末と並行する寒気のはしる展開です。SMクラブにハマった男「M」は、度肝を抜く胸くその悪さ。インパクト強し…。
2023/04/08
TAKA
馳さん初読みですがアナーキーですね。ここまでエロス全開とは思ってなかったですが、変態の粋に達してますね。快楽の中に人間の底の部分がよく描写されてて欲望とはこういうもんなんだよって植え付けてくれてるようでした。どの作品もラストがヤバい。性癖の尊さよ。
2022/03/31
じゃじゃまる
性癖というのは千差万別、十人十色。生活環境やら家庭環境、過去のトラウマとかにも左右されるし、ちょっとしたきっかけで眠っていた本能が目覚めてしまう場合もあるんだろうなあ。とは思うが、本作に出てくる人々は特殊な事例だと思いたいな、小説だもの。ただ伝言ダイヤル主婦だけは実際にありえそうだ、怖い。どの話もラストがゾッとする。性描写が多いので基本官能系だが、馳星周らしいまとめ方。おもろかった。
2017/09/06
Tetchy
全てバッドエンドなのがこの作者らしい。ネットに蔓延するエロ画像、秘密の出会い系クラブ、伝言ダイヤルを使った主婦売春、SMクラブとここに挙げられているのは誰もが街中で目にする光景だ。本作の主人公たちはその陥穽に嵌り、人生を転落していく人々。それまでの長編で見せた転落人生劇場がこの約80ページの短編でも繰り広げられる。性と暴力、抑えられぬ情欲と衝動。お決まりの馳氏のカードばかりだ。今までの馳作品の中でも最も薄い作品だが、人間の激情はいささかも薄まっていない。馳氏の、人間の心の闇への探究はまだまだ続きそうだ。
2012/06/20
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