蜻蛉始末 (文春文庫 き 21-3)
蜻蛉始末 (文春文庫 き 21-3) / 感想・レビュー
佐々陽太朗(K.Tsubota)
傳三郎と宇三郎は固い絆で結ばれている。二人の関係はまさに「光」と「影」であり、表舞台で光りを浴びる人間と影勤め(陰守り)の関係といえる。そしてまたこの物語は、傳三郎(光)と宇三郎(影)だけの物語でなく、倒幕、明治維新、そして西南戦争と時代が大きな渦となって変わる中、眩いばかりの光を放った人物達と、彼らが輝くためにあえて影に回った人間や、時代の流れと運命に抗えず陰となった者達を鮮やかに描いた物語でもある。ここに描かれているのは志士たらんとした者達の心の揺らぎ、裏切り、変節、欲による薩摩閥と長州閥の暗闘だ。
2019/03/02
KAZOO
たぶん北森さんのどこかの本のあとがきで愛川晶さんがこの作品が一番であるといっていましたが、北森の従来の作品の中では確かに読みごたえはあるという気がします。この主人公たちがからんだ偽札事件は山田風太郎の「警視庁草紙」の中にも出てきますが、ここではどちらかというと藤田傳三郎と幼馴染の宇三郎を中心に据えて明治の初めの頃の長州閥と薩摩閥のせめぎあいなどをうまく書かれているという気がしました。
2023/11/22
エドワード
長州藩奇兵隊は、明治維新後、日本の様々な分野で活躍した人物を生んでいる。その中の二人、藤田傳三郎と宮越宇三郎の人生を通じて、維新の光と影を描き出す大長編だ。幕府が倒れ、近代日本政府が生まれたが、倒幕の主勢力だった武士たちが、その政府によって葬り去られる切なさ、歴史の皮肉を垣間見る。傳三郎と宇三郎は友情とも愛憎ともつかぬ数奇な縁で結ばれ、何が吉と出、何が凶と出るか全くわからぬ時代を、それこそゆらゆらと<蜻蛉>のごとく生きていく。藤田傳三郎が今年4月に奈良で見た藤田美術館展の創始者であることに因縁を感じる。
2019/07/29
み
良かったぁ♪最初で何?どうしたの?とガッツリ引き込まれ夢中で読みました。幕末〜明治の偉い方々が登場しますが、この作品は偉い方々のこと知ってたら…、なんて考えは浮かびませんでした。全てがお話しで消化できたってことかな?この作家さんの未読はあと何作でしょ(T-T)
2014/12/03
BuyFSX
本書を読むまで藤田傳次郎の事は全く知りませんでした。史実をベースにしていますが、本人が後世余り多くを語らなかった闇の部分を作家の創作により上手く物語として説得力のあるストーリーにしたてられている。幕末から明治への激動の中で翻弄された人々が見事に描かれていて、時代が大きく変わろうとする時には変わっていける者、変れない者の葛藤と衝突が延々と繰り返されてきた事だろう。
2013/07/03
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