旗師・冬狐堂 緋友禅 (文春文庫 き 21-4)
旗師・冬狐堂 緋友禅 (文春文庫 き 21-4) / 感想・レビュー
セウテス
冬弧堂シリーズ第3弾。何時もながらに、落ち着いた文章で、静かに心を掴むという感じだ。ひとつの古美術品を題材に、隠された人間模様とひとつの謎がそれぞれに描かれている。陶子の魅力は勿論、情緒ある雰囲気に読み終えて余韻に浸りたくなる。タイトル「緋友禅」の謎解きと、終盤の怒濤の攻撃と結末に胸がすっとする。やはり勧善懲悪ではないが、探偵による真実の証明はミステリにおける醍醐味に違いない。「奇縁円空」では、過去の作品そっくりの物を作るのではなく、その心や技法を受け継ぎ創る事で、贋作ではなく真作となる思いに心うたれる。
2019/07/21
文庫フリーク@灯れ松明の火
『お宝鑑定団』くらいしか縁の無い古美術・骨董。店舗持たない個物商を《旗師》と呼ぶのですね。古書であれば《せどり屋》でしょうか。騙し騙され、駆け引きに魑魅魍魎棲くう業界に主人公《冬狐堂・宇佐見陶子》香菜里屋シリーズで知った北森鴻さん。美術品の製作技法まで踏み込んだ謎は、きな臭さと深い渋みを感じます。4編ともいぶし銀の魅力ですが、円空木地師(山の民)説「奇縁円空」が最も好みでした。
2012/01/01
みのゆかパパ@ぼちぼち読んでます
骨董品や美術品にまつわる事件に巻き込まれた女性古美術商・陶子の姿を描く冬狐堂シリーズ第3弾。三つの短編と中編1作からなる構成ゆえに、騙し騙されの世界のなかでの二転三転を存分に味わわせてくれたこれまでの長編に比べると物足りなさも感じたが、とはいえ一つひとつの作品の出来が悪いわけではない。個人的には、書簡体を取り入れ、ひたひたと追い詰めていく感じを盛り上げた「永久笑み」が好みだったが、他の作品も、事件に刻まれた人間の生き様がしっかりと描きこまれていて読み応えがあり、これはこれで十分に堪能できる作品集だった。
2012/12/27
イトノコ
画廊で偶然出会った、無名作家のタペストリーに魅せられた陶子。全ての作品を購入する契約を結ぶが、作家は変死し、タペストリーは消えてしまう。(表題作)/冬狐堂シリーズ3作目で、今作は短編集。蓮丈那智シリーズもそうだが、長編だとどうしても冗長になってしまうところ、短編なら事件もテーマもサクッと完結に終わって小気味良い。今巻の4話目、100ページ程度の中編「奇縁円空」ですらミステリー要素が余計に感じてしまうので、短編形式が私には合ってるなあ。とは言え「奇縁円空」も骨董要素は読み応え十分、骨董の美の世界を堪能した。
2021/08/24
エドワード
美術品にはどうやって値段をつけるのだろう。店舗を持たない美術商、宇佐美陶子の物語。陶磁器はアートであり生活用具であり、飾るものであり使うもの。作者の技量に加えて材料がものをいう、その狭間に起きる事件「陶鬼」。鏡や埴輪など古墳からの盗掘が起こす悲劇「永久笑みの少女」。斬新な描画技術は誰のものかを問う「緋友禅」。<贋物>とは何か?本物に勝る<贋物>が現れた時、人々はどう反応するのだろう?「奇縁円空」。美術品の売買にからむ人間の金や名誉への欲望を描き出す。虚しさを幾度覚えても、抜けられないのがこの商売なのだ。
2015/05/16
感想・レビューをもっと見る