球形の荒野 (下) 長篇ミステリー傑作選 (文春文庫) (文春文庫 ま 1-128 長篇ミステリー傑作選)
球形の荒野 (下) 長篇ミステリー傑作選 (文春文庫) (文春文庫 ま 1-128 長篇ミステリー傑作選) / 感想・レビュー
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下巻に入っても、先が読めそうで読めない気になる展開が続く中、まさかというか、やはりというか、あの人物が登場する。大戦時、敗色濃厚の中で国を救うため、家族と自分を犠牲にせざるを得なかった男の心中。彼に関わる周りの人々の思いと行動。事件の真相が次第に明らかになるにつれ、ページを捲る手が止まらなかった。ラストの観音崎の場面は、娘を持つ身としては涙が溢れてきて仕方なく、通勤電車の中で困るぐらいだった。日本各地の風景の描写も味わい深く、戦時の外交が絡む緊迫したサスペンスながら、人の情緒が溢れた素晴らしい作品だった。
2018/06/07
matsu04
終戦前の日本の謎の外交事情とはそういうことであったか。なるほどねという感じではある。「球形の荒野」という謎のタイトルについてもまた然りである。まあそれはそれとしてもラストシーンは胸にグッとくるものがあった。で、奈良や京都、伊豆やら信州やらの温泉地などなど、これ、実際に行って書いたんだろうなあ、羨ましい。(再読)
2023/01/12
きょちょ
いろいろな事件が起こり、いろいろな謎が提示され、最後はこういう事です、という推理小説は実に多い。 その最後の、事件や謎の必然性や読者の納得感・感動が伴うかどうかで、面白さははっきり違ってくる。 画家の死だけちょっぴり違和感が残るが、それ以外この作品は、必然性、納得感・感動すべて網羅されていた。 「砂の器」ほどではないが、ちょっぴり涙がぽろり。 背景には戦争の悲惨さがあり、清張が単なる推理作家でなく「社会派」と呼ばれていたことを思い出した。 ★★★★
2016/12/21
シュラフ
奈良の西ノ京からはじまった物語が観音崎の親子の再会で感動のフィナーレとなる。エンドの場面は思わず涙。物語自体は不可解な事件と親子の再会ということが軸になるのだが、その背景は第二次世界大戦の日本の欧州における和平工作の舞台裏というものがあり、物語の展開に色を添えるのが奈良・京都の古寺といった日本的情緒である。読者にとっては、この作品で知的好奇心、日本各地の旅情、親子の情愛にみる感動、サスペンスのどきどき感、など小説の醍醐味がすべて凝縮されているような作品である。松本清張の力量はさすがと脱帽させられる。
2015/02/24
kunpi
球形の荒野 読了。泣けますね、清張さんにこんな優しい情緒ある作品があったとは。終戦を画策し推進した外交官が娘に会いたくて日本に戻ってきた。父は死んだものと思う娘が父親と気づいたかどうか分からないままの最後。秘密工作も叶わず敗戦へと向かった戦争の虚しさとそこに生きた一人の男の想い。虚しい時代背景と合い感慨深い読後です。奈良や京都のお寺の恋人達の落書きが本書のアイデアらしいがその気持ちを汲み取った清張さんの優しさと日本の美しい風景を感じられるとても良い作品でした。
2018/05/27
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