もののたはむれ (文春文庫)
もののたはむれ (文春文庫) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
芥川賞作家の処女作。濃密な文章の力で夢の世界に連れて行ってくれる力作。漱石の『夢十夜』と似た肌触りを感じた。改行の少ない、息の長い文章を読んでいると頭の芯が緩やかに回転して、目の前にこれまで見たこともないような世界が現れてくる。そこはこの世界とつながりを持ちながら、作者の無意識が作り出した幻想の世界で、あらゆるものが不思議な存在感を持っていた。何気ない散歩がいつの間にかエロチックな陶酔に変わる冒頭の「胡蝶骨」と、読み手が結末で深淵を覗き込むことになるラストの「千日手」が好み。
2014/11/09
メタボン
☆☆☆☆ 存在の不確かさ、記憶の曖昧さ、偶然にたどり着いた場所、そんな幻惑されるような読書体験。何よりも文章の濃度が良い。詩人の文章。1篇が10ページ程度という長さも幻惑体験に丁度良いのだろうか。雰囲気は違うが内田百閒を読む味わいにも通じる。何か月ぶりかで訪ねた喫茶店がもうやっていなかった「並木」、老境の逍遥「雨蕭蕭」、女の手の感触がずっとつきまとう「アノマロカリス」、唐突に存在が薄れる瞬間「千日手」が特に良かった。
2022/02/03
うえうえ
どれも10ページほどの短編集。すばらしい。幻想的で惹きこまれる。うねうねした文章が心地よい。中井英夫の短編集もよかったが、こちらの方がわかりやすく和の感じがして好みだった。
2019/10/30
しずかな午後
小説家としての松浦寿輝のデビュー作であり、ほんの短い掌編小説が十四篇おさめてある。自分がこれまで読んできた松浦寿輝の小説にも出てきたイメージたち、女体の白さ、水の匂い、宝石のかがやき、廃墟の静けさ、酒や薬による酩酊、自己が失われていくことのよろこび、それらが次々にゆるやかに目の前に現れては消えていく。ただひたすらにすばらしい。
2024/09/13
おとん707
14篇の短編からなる、たぶん連作集。共通して幻想と怪奇が漂う。そして物語が突然終わるのが特徴。起承転結の結がなくて終わってしまうような感じ。また大半の作品で水ないしは雨が効果的に扱われているのが印象的。作者40代始めの作だと思うが60代の作者が書いたような感覚を覚える。最後の「千日手」で描かれる”永遠”は、誰でも一度は想像する自分の死後も自分なしで時が流れていく恐ろしさを巧みに描いている。作者は現芥川賞選考委員。今期候補の中では「首里の馬」を選考委員中唯一はっきりと高く評価しているが、分かる気がする。
2020/10/07
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