沖で待つ (文春文庫 い 62-2)
沖で待つ (文春文庫 い 62-2) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
表題作は、第134回(2006年)芥川賞受賞作。著者の絲山秋子が、大学卒業後に住宅設備機器メーカーに勤めていた経験に基づいて書かれた作品。お仕事小説という感じだ。さすがに細部にわたってのリアリティはあるが、小説としての革新的な新しさはやや乏しいと思われる。物語の核心をなしているのは、語り手の「私」と太っちゃんとの間に交わされた秘密の約束にあるのだが、読者に小説的な驚きを与えるほどではない。物語の後半、表題の由来が語られるところはジンとこないでもないが。また、30代以上の読者の共感は得られそうではある。
2012/11/16
さてさて
第134回芥川賞を受賞した〈沖で待つ〉を含め、三つの個性的な短編が収録されたこの作品。三つの短編はそれぞれに特徴を持っており、三者三様の楽しみ方があり、そこには、とんがった個性を持つ物語がそれぞれに描かれていました。表紙や書名から受ける印象が一気に吹き飛んでしまうこの作品。芥川賞を受賞された絲山秋子さんという作家さんの個性のあり方を見るこの作品。どこか超然とした印象も抱く〈沖で待つ〉という言葉の響きが作品の印象を支配する読後感。その一方でそれぞれに個性あふれる短編をサクッと楽しめもした、そんな作品でした。
2023/03/18
しんごろ
『勤労感謝の日』…ブラックというかなんというか…。男として上司と見合い相手の男は反面教師にしなければならないと思いますね。ブラックな印象だけど、読後感は悪く感じないのは、絲山マジックですね。『沖で待つ』…会社の同期の話なんですが、淡泊ながらも淡々さらさらな感じで、面白かったです。なんか絲山さんのこの世界観がいいですよね。 『みなみのしまのぶんたろう』…まあ読みにくい。ラストがしっくりこなかったですね。 よしもとばななさんが好きであれば絲山作品も面白く感じます。絲山ワールドの虜になりました。
2018/01/05
ehirano1
表題作について。なんかこういうのいいな、と感覚的に思います。昨今ちょくちょくこういった作品に出合うような気がします。私が定年まで10年を切ったからこそ感じるモノがあるのかもしれません。不遇の死を遂げてしまった同期と死後もこうして違和感なく会っていつものように話すことができるのってある意味ホントに羨ましいと思いました。組織には色々な人がいて大変だけど、何だかんだで結局はやっぱり「仲間」なんだということを改めて感じた読書となりました。
2023/04/03
zero1
恋愛抜きで男女の間に友情はあり得るか?死ぬとはどういうことか。この芥川賞受賞作は、それらの疑問に答えている。住宅設備機器メーカーの「私」は、太っちゃんと約束をする。どちらかが死んだ場合はPCのHDDを破壊するというもの。収録されている「勤労感謝の日」は36歳無職の女性が見合いをする話。本音が笑える。もうひとつ短編も収録している。芥川賞は「こっちの作品のほうが面白いのに」ということがよくある。久しぶりに再読してみると、「沖で待つ」には光るものがある。それが何かは読んだ人しかわからない。
2018/11/27
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