夜を着る (文春文庫 い 67-3)
夜を着る (文春文庫 い 67-3) / 感想・レビュー
ミカママ
『夜を着る』英語のサブは『Putting the Night On Me』にまずヤラれました。全編「旅をテーマ」にした作品であったと、あとがきで初めて知った私にレビューを書く資格があるのか?日常でいろいろ抱えている男女が主人公。その日常を離れた旅先(もしくは脱出先)で・・・という設定。荒野さんのスゴいのは、物語の終わらせ方。ブチッと終わらせて、読者に余韻を残させる仕組み。上手いね。
2017/08/28
さてさて
八つの短編は、逃げ隠れできないからこそ、日常では経験できない様々な思いを感じさせてくれたのだと思います。そして、そんな経験は日常の連続では決して変わらなかった主人公の未来を少なからず変化させました。もちろんそんな風に変化した先に続く未来が必ずしも正しいかどうかは分かりません。しかし、その未来は当たり前の日常の中に生きるだけでは決して得られないもの、非日常の『旅』を経験したから得られたものだと思いました。『旅』をテーマに描かれた短編をまとめたこの作品。ああ、私も『旅』に出てみたい、ふとそう感じた作品でした。
2022/04/18
じいじ
著者は「小さい頃、旅がきらいだった」そうだ。幼い時の二泊三日ほどの家族旅行の行先は、すべて父が決めていたとのこと。父親は作家・井上光晴だ。荒野さん、大人になって旅が好きになったらしい。本作は、1篇が20~30頁の8つの旅にまつわる話だが、どれも井上荒野らしい感性の話で面白くて、上手い。敢えて言えば、夫婦の微妙なアヤをユーモアに描いた表題作が印象に残った。味わい深い、少しばかり物足りなさも残る、井上荒野の佳作の一冊である。
2017/10/09
新地学@児童書病発動中
苦くて熱いブラックコーヒーのような味わいの短編集。火傷しないようにゆっくり味わうことで、この短編集のコクが分かってくる。人間の後ろ暗さや弱さが浮き彫りになる物語ばかりだ。それでも、その暗さを自分の心に浸透させることができたら、人生に覚醒できるような気がした。「よそのひと夏」は父の愛人を描く小説だ。彼女が父の葬式に来ることで、主人公は子供時代の居心地の悪い経験を思い出す。暗く重たい話だが、綺麗ごとよりは真実味を感じる。複雑な長編になりそうな内容を、17ページに凝縮した作者の鮮やかな手際が見事だった。
2018/02/10
shizuka
もうとことんドライなのが気持ちいい。いつだって男の気持ちと女の気持ちは交わらない。見事なほどに。やっぱ女の方が強いなあ。いざとなるとすっごく冷静に現実を見つめて、それに対処しようとする力を発揮する。男の人は逃げちゃおうかなってパターンが多かった気がする。どろどろベタベタしていなくて、さくさく読めた。こういう身も蓋もない小説、いいなー。色恋沙汰が目立つけれどあとがきを読んだら「旅」の小説だったらしい笑。ああ、そういえばみんなどこかへ出かけてた!私は旅は旅で楽しみたい。曰くある旅はどんな思い出になるんだろう。
2018/04/04
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