世界は村上春樹をどう読むか (文春文庫 編 7-1)
世界は村上春樹をどう読むか (文春文庫 編 7-1) / 感想・レビュー
コージー
★★★★☆17ヵ国の翻訳家、作家、出版社が、「村上文学」について語った国際シンポジウムの記録。他国の翻訳家たちが口々に言っていたのは、村上春樹の文体のリズムを損なわないように細心の注意を払って訳しているということ。音楽のように流れるような読みやすさ──やはりここが村上文学の真骨頂なのだろうか。また、彼の文学が世界で受け入れられているのは、日本の文化から離れた無臭性と、特に若者の心を代弁する孤独や虚脱といった厭世的な部分にあるということらしい。なるほどと頷ける部分である。なかなかおもしろかった。
2021/07/05
James Hayashi
なぜ村上春樹が世界で注目されているのか、常に疑問に思っていたが、その直截の回答はないが、如何に訳者が自国の文化と言語を背景に苦労されているかが偲ばれ、また村上春樹という巨匠の凄さを浮き出させているように感じた。こういった企画も珍しく、世界から訳者を集め講演を開くとなれば数千万の金が動き、さらに春樹というブランドの確立が際立ったように思う。彼がノーベル賞を取る理由が薄々見て取れるが、科学のように際立った功績は言いづらい。(ノーベル賞)受賞後に再読必要。
2021/05/08
春ドーナツ
シンポジウムに参加したことがないので、「全記録」を興味深く読む。基調講演はリチャード・パワーズ氏。肖像写真を見るのは初めて、というか、いつもお世話になっている沼野充義さんの風貌を拝見できて、ふむふむと感じ入る。「翻訳本の表紙カバーを比べてみると」が楽しかった。「A Wild Sheep Chase」は「wild-goose chase」(雲をつかむような、あてのない追及)のもじり。こういう話好きです。村上春樹を中国語で発音すると「シンシャン・チュンシュウ」。久しぶりにチャーシューメンを食べたいなと思う。
2019/05/24
スミス市松
今やほとんどセンチメンタルにノスタルジックに――「村上春樹的」に――語られがちなこの作家について、ミラー・ニューロンを端緒に語り直すリチャード・パワーズの「基調講演」にはこみ上げてくるものがあった。村上もまた「日常からの逸脱という出来事の執拗な探求」を描く作家であるが、しかし彼が従来の文学と比べて決定的に新しかったのはそのまなざしを「下」に向けたことにあると思う。つまり天や至上や向う側ではなく、こちら側を、井戸を、地下を、自分自身を見つめ続けたということだ。
2012/12/01
佐島楓
いち春樹ファンとしても、翻訳というか他言語と日本語の関係に興味があるものとしても非常に面白かった。フランスでは春樹作品は日本的ではないから最初文学的に警戒されたが、のちに幅広く受け入れられたというあたりに、作品の持つ魅力や特異さを見た気がした。もう少し新しいサブカルチャーとのリンクという切り口からの考察もできそうだとも思った。ファンならずともおすすめ。
2012/04/01
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