被爆のマリア (文春文庫 た 61-3)
被爆のマリア (文春文庫 た 61-3) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
田口ランディは初読。本書には表題作を含めて4つの短篇を収録。表題作のマリアは長崎のものだが(小説の舞台は東京)他の3篇は被爆地としての広島が描かれる。短篇集全体としては"被爆"が共通テーマである。小説としての完成度は「被爆のマリア」が最も高いが、タイトルとは裏腹に"被爆"との直接的な関連を持たない。内容的にはどこにも救いのない、しかし一途な信仰(対象は被爆マリア像)だけがある小説。「永遠の火」は、ややコミカルな要素を含むが、他の2篇はシリアスに被爆地である現代の広島に向き合いつつ、そこに生じる齟齬を描く。
2020/11/02
Willie the Wildcat
異なる視点で再考する”傷跡”。象徴が、火/水/岩(磐座)/偶像。過去から現代への時間の経過と、伴う変化。世代間、理想と現実、手段と目的、そして自他という4つの対照性。共通点は、理由を求めた苦悩の末、辿り着いた自然体。印象的なのが『イワガミ』。1人の被爆者の投げた疑問。好奇心?平和?踏まえて鎮魂で〆。『永遠の火』の解を、垣間見ることができた気がする。一方、『時の川』と『被爆のマリア』の自他は、実像と偶像の差異と、「現在」との向き合い方の差異。前者の直球に対する後者の変化球という感。”生きがたい”、嫌な響き。
2021/05/24
扉のこちら側
初読。図書館でタイトルに撃たれたように借りてきて、開いてみるとハッとさせられる言葉たちが。私にとってのやるせない日の記憶も、よみがえる。
2013/06/24
まさきち
なんとなくとらえどころのないような、でも自分の中にもある痛いところを突かれたような不思議なストーリー達。その感じがやはり田口ランディさんらしさなのかなとなんだか納得した一冊です。
2014/02/04
かおりんご
小説。タイトル借りしたのだけれど、なんとも言えない読後感。直接原爆とは関わってはいない主人公が、間接的に原爆との関わりをもつ。表題の小説の主人公は、病んでるんだろうな。自分を被爆のマリアと重ねること自体が、心の闇。実際に、浦上で本物を見たけれど、おぞましいのと、恐ろしいのと、ものがなしいのとで、ずどーんと落ち込んだことを思い出す。『イワガミ』は、好きかな?
2017/10/15
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