恋しぐれ (文春文庫 は 36-4)
恋しぐれ (文春文庫 は 36-4) / 感想・レビュー
遥かなる想い
江戸中期の俳人与謝野蕪村を軸にした 連作短編集である。昔ながらの 人情味溢れる小噺が続き、品のある 雰囲気が心地良い。登場する女性たちの慎ましさと、頻出する俳句が 与謝野蕪村の 世界を彩る。ひどく儚い心洗われるような 江戸の人情物語だった。
2022/05/19
いこ
京の俳人であり絵師の与謝蕪村を主役に、その周囲の人々を描いた連作7編。京都が舞台なので、ゆったりとたゆたう様な京言葉が魅力的。章の中に二~三句織り込まれる蕪村の俳句も風雅。これら俳句や絵を絡めながら、蕪村の後半生を鮮やかに蘇らせていく。蕪村の妓女との恋、娘の恋、弟子の恋、友である円山応挙の恋…と恋愛中心の短編達。三章の、弟子の大魯と罪を犯し遊女屋をやめさせられた妓女の言葉が印象的。『世の中、悪いことばかりやない。自分がしっかりしてたら生きていける。死んだらしまいや。生きた者が勝ちや』生きた者が勝ち、です!
2022/04/03
nico🐬波待ち中
京を舞台にした与謝蕪村の老いらくの恋と、蕪村の娘や弟子達の無器用なまでの恋模様をしっとりと描いた連作短編。相手を一途に愛おしく想う様が妖しく美しく描かれてあり、読んでいるこちらも心がザワザワしてくる。そしてそれをそっと見守る蕪村の温かな眼差しに泣ける。短編に添えられる蕪村の俳句や絵が内容にピタリと合っていて、これまた泣ける。蕪村の周りの恋は切ないのに粋に思えるから不思議だ。円山応挙が恋する気持ちを「せつのうて哀しいのやけど、なにやらあたりが生き生きと見えましてなあ」と言っていた。恋とは正にこれである!
2017/03/03
佐々陽太朗(K.Tsubota)
蕪村、あるいは応挙の老いらくの恋、そして彼らの弟子たちの恋もまた描かれる。恋とはやはり落ちるものなのだとあらためて思う。なかなか成就せず、またたとえ成就したとして、それが地獄の入り口となることもある。恋はまた人を仏にも鬼にも変えてしまう。生きるということは、恋するということはかくも罪深いことなのだろう。それでも人は恋をする。それこそが生きた証しであり、人生の華なのだろう。かの福田恆存の言葉に「教養とは、また節度であります」があるが、人から尊敬を集める才人であっても恋に落ち、節度を無くしてしまうものなのか。
2023/02/18
mint-s
弟子たちとともに京で穏やかに暮らす与謝蕪村。友人の丸山応挙や上田秋成も登場し様々な人間模様が描かれる連作短編集。今も昔もいくつになっても人の恋する気持ちは止められない。葉室麟さんが描く恋模様は美しくさらっとしているようで人が人を大切に想う熱がしっかりと伝わってきた。
2020/08/19
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