乳と卵 (文春文庫 か 51-1)
乳と卵 (文春文庫 か 51-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
第138回(2007年下半期)芥川賞受賞作。1文の長い饒舌体の大阪弁で語られる独特な話法。井原西鶴の文体がまさにそうであった。選考委員の池澤夏樹が樋口一葉へのオマージュを指摘しているが、同様に西鶴へのそれでもあるだろう。タイトルにとられている、乳と卵は女としての生物的な性(セックス)のシンボルだろう。そして、それはセックスであると同時にジェンダーでもある。豊胸に拘泥する巻子と、子どもを産みたくないという緑子。「ほんまのことなんて、ないこともある」―最後は生そのものの根源的な意味にまで遡及することになる。
2013/01/14
さてさて
『…胸だけがそんな?豊胸したら、巻ちゃんどうなる?どうなれる?』そんな疑問を姉の巻子にぶつける主人公の『わたし』。この作品では、そんな『わたし』が暮らす東京へと『豊胸手術』で訪れた姉の巻子と、それに付き添ってきた娘・緑子の姿が『わたし』の視点から描かれていました。ひたすらに読点で繋げていく、長い、極めて長い一文の連続に酔いそうにもなるこの作品。そんな表現を関西弁が絶妙に彩ってもいくこの作品。好き嫌いを通り越して読者を絡め取っていく独特な魅力を放つ物語に、純文学ならではの面白さを垣間見た、そんな作品でした。
2024/02/15
absinthe
読み始めるになかなか意味が解らんなぁ、この作家さんなかなか句読点打たへんな、文が長いな、と思いながら読み進め、これは女の体に起こる成長と加齢による変化の物語でそれを男性性を排除した3つの視点から書いているのやなぁと思いながら、消費期限の卵(たまご)を捨てようか悩む場面で、ははあこれは卵(らん)と卵(たまご)を掛けとんやなぁと感心し、クライマックスに至ってみたらいつの間にか面白くなってて、最後は通勤電車の中にも関わらずくすくす笑いながら、いい話読ませてもろたと感心したような感想。
2020/10/21
風眠
改行無しでえんえんと大阪弁で綴られる文章は、最初読みにくいなと感じたが、慣れてくるとじかにおしゃべりを聞いているような不思議な感覚になる。まるで音楽のようで、とても気持ちがいい。女同士のあけすけな会話の中に見え隠れする、成熟したくない娘の葛藤と、若く魅力的であり続けたい母親の葛藤。そこにがんじからめになるあまりに、二人は意思疎通を半ば諦めてしまう。女として生きることの苦しさと悲しさ、胸の内に秘めたプライド、じたばたする女たちの本音が描かれた作品だった。好みは分かれそうだけど、私は好きだな。
2012/02/07
抹茶モナカ
豊胸手術に取りつかれた巻子。筆談しかしない娘の緑子。3人の女性の風景。饒舌なようで、不器用な文体が、読んでいて、わくわくした。ただ、描かれる風景やイメージは、少し安直な感じもしなくはない。それでも、純文学していて、良かった。
2015/10/07
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