神様のいない日本シリーズ (文春文庫)
神様のいない日本シリーズ (文春文庫) / 感想・レビュー
pino
「川」「父」「血」の言葉は『共喰い』を彷彿とさせる。野球の話だが、白球も青空もない。躍動するのは父親の思い出の中の野球選手のみ。なにしろ、野球少年の香折は名前と祖父の事でからかわれ自室に籠り、父は扉の外から、ひたすら息子に語る。あの男の過去、寿万との約束、母親との出会い、そして1958年と1986年のいずれもライオンズが絡んだ奇跡の日本シリーズの話を。少年の頃の父親の野球の記憶、特に残されたバットの因縁が知りたくて字を追ったが、描写が細かくて錆を削ぎ落とすように時間が掛かった。野球好きの私は面白く読んだ。
2013/10/14
クプクプ
1986年の広島カープ対西武ライオンズの日本シリーズ。広島の山本浩二や北別府、金石。西武の清原や工藤、ブコビッチ、そして秋山の宙返りが出てきました。その日本シリーズが開催されているときに、中学生だった父と母は芝居の練習を熱心にしています。母が芝居の題材を選んだのですが、その戯曲が渋すぎて、父と母は演技の難しさに戸惑います。1986年、私は中学生で日本シリーズを見ようと放課後、学校のテレビをつけてしまい、教師に説教されたことを思い出しました。私は田中慎弥と同世代なので当時の時代背景が鮮やかによみがえりました
2021/05/15
優希
再読です。父親を軸にした語りの物語です。いじめが原因で野球を辞めようとしている息子への扉越しの語りかけに尽きると言っても良いでしょう。豚を殺したバッド、バッドを捨てた父、引きこもりの息子と繋がっていく中で「ゴドー」が登場し、父親と重なっていく。失踪した父か嫌悪する母かという運命と野球が重なる血に眩暈がしました。受け継がれていく血はどこに着地するのか曖昧にしているところにも惹かれます。
2024/06/28
なる
野球部でいじめにあって自室に引きこもった小学四年生の息子に、ドア越しに話しかける父親、という形式で進められる物語。息子の祖父、つまり語り手の父親にあたる人物の悪評からいじめにつながったことと、野球の道を選ばなかった自分自身の半生、それにプロ野球の日本シリーズのエピソードを織り交ぜながら、さらに戯曲『ゴドーを待ちながら』を巧妙にリンクさせる筆力の高さに溜め息。大人になりきれないまま大人になり、それでも父親になろうとする自身の本音をぶつける原寸大の姿は真に迫っていて後半は涙があふれる。分量も終わり方も最適で。
2022/08/08
優希
父を中心に祖父と息子の邂逅の物語になっています。自分の子供に語りかけるような感じでしょうか。豚を殺したバッド、バッドを捨てた父、香折という息子とつながる中で登場する「ゴドー」が父親と重なっていくのが何とも言えない想いになります。失踪した父に従うべきか、嫌悪する母についていくべきか。血と野球の転機にただクラクラするばかりです。受け継がれた血は結局どこに着地すべきかという確実さは曖昧なんですね。
2014/07/23
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