月と蟹 (文春文庫 み 38-2)
月と蟹 (文春文庫 み 38-2) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
本篇は直木賞(第144回・2010年下半期)受賞作だが、いわゆるエンターテインメント小説ではなく限りなく純文学に近い、いわば境界上に位置する小説である。2人の少年と1人の少女が描かれるが、彼らが抱える3者3様の葛藤が物語を紡いでゆく。また、少年と少女の感情、そしてその表出のあり様、あるいは成熟度の差異が巧みに捉えられており、このことは作品にリアリティを保証するとともに、哀しみの「質」を平板化させない機能を獲得している。物語には一貫してヤドカリが登場するが、これもまた哀しみのメタファーとして有効である。
2019/08/25
三代目 びあだいまおう
上手い!読後すぐに感じたのがその一言。一文字たりとも無駄も不足もない。完璧といえる作品だと。主人公慎一は祖父と母との三人暮らし。父親を癌で亡くし転校するが、実は祖父の左足は船事故で失っており、その事故が原因で転校先のマドンナの母親は死んだ。多感で感性豊かな小学生時代、慎一の一人称で紡がれる日常はどこか懐かしく、どこか繊細で、残酷ささえを内包する。子どもらしい感性で家族の不穏な空気と友人とのかけがえのない繋がりを語りながらやがて辿り着く結末。一人称を脱し客観の表現と変化した先、戦きに似た読後感が漂う‼️🙇
2020/01/07
Atsushi
小学生3人の物語。病気で父を亡くした慎一と父から虐待を受ける春也。二人は大の仲良しだが、そこに事故で母を亡くした鳴海が加わり、3人の関係は微妙に。3人の関係を縦軸に、慎一の母と鳴海の父との恋愛関係が横軸で描かれる。ヤドカリを神として3人の願うことは時にして大人よりも残酷だと思った。「大人になるのって、ほんと難しいよね」、「大人も弱いもんやな」彼らがラストで交わす言葉が印象的。第144回直木賞受賞作。
2017/08/05
hiro
直木賞受賞作が文庫化されたので即購入した。先に同じ小学生が主人公の『光』を読んでいたが、『光』は主人公達が謎を解く、化石を盗む、そして誘拐犯の脱出と、主人公達の冒険を描いた作品で、この小学生達を羨ましく思った。一方、この『月と蟹』は、子供のもつ残忍性を改めて感じる。大人に目からすると、それぞれの配偶者を亡くした慎一の母と鳴海の父の密会は、不思議なことではないが、子供からすると許せないことだったのだ。小説や映画の題材としてよくある明るくもない話を飽きさせずに読ませるのは、道尾さんの筆力だと改めて思った。
2013/07/20
kaizen@名古屋de朝活読書会
直木賞】著者の作品は苦手だった。初めは恐る恐る読み進んだ。学園物で地域物。鎌倉が舞台。蟹も登場するが、ずっと出てくるのはヤドカリ。「ヤド神」として祀るところが妙。やや暗め。不快感はない。読んでいる最中はヤドカリとザリガニを混同していて感想にザリガニと書いていたのを指摘をうけて訂正。小さい頃、近所にいたのはザリガニだった。。。脳内変換。。。
2014/02/20
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