勝手にふるえてろ (文春文庫 わ 17-1)
勝手にふるえてろ (文春文庫 わ 17-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
語りが女性の独白体をとっているためだろうか、太宰の『女生徒』との相通性を感じる。もちろん、『女生徒』では30歳の太宰が14歳の女生徒に仮託したのに対して、こちらは作者自身と同じ26歳の、オフィスの経理課で働く女性に仮託しての語りだから、その階梯も大いに違うのだけれども。また、太宰の方がいい意味で観念的であるのに比して、こちらは体臭や身体の厚みを持った、これもいい意味で皮膚感覚的だ。霧島と結婚して、はたしてヨシカは後悔しないのだろうか。かといって、イチは恋人としては振り向いてはくれないだろう。悩みは深い。
2013/01/12
zero1
妄想女に共感?リズムでキレを見せようとする綿矢。二人の彼氏がいる26歳の痛いヒロインのヨシカ。何が痛いかといえば、妄想で「イチ」と呼んでいる彼には想いを伝えてない。つまり「イチ」は彼氏ではなく、会っても絶滅動物の話をしてしまう。せっかく他人になりすまして同窓会まで開いたのに。彼女には体育会系の「ニ」という同僚が言い寄ってくる。そして付き合うことに。もし自分が二軍なら嫌だ。男性経験について同僚が話してしまう場面は女性の視点。女性読者から見てこの作品はどうなんだろう?終盤の行動は常軌を逸している。
2019/03/13
ミカママ
ふたりの恋人(実はひとりは片想い)のあいだで揺れるヨシカを見て、まるで自分のよう...と思う女性は多いのでは。好きではない方の恋人を、冷静に分析する彼女の感性に吹きまくり。喪った恋の大きさは、喪ってから初めて気づくもの。そして初恋の彼には再会したらダメですね。夢は夢のままがいい。
2016/10/31
さてさて
二人の男性の間で揺れ動く女性の微妙な感情の動きを執拗に描いていく綿矢さん。初恋の人と結婚に至る確率は1%程度という現実は、”わずか1%”と感じる一方で”1%もあるのか”とも取れる数字だとも言えます。そんな『初恋の人をいまだに想っている自分が好きだった』と感情を昂ぶらせる主人公・良香が『自分の直感だけを信じず、相手の直感を信じるのも大切かもしれない』と冷静な感情を身につけて、一つづつ大人になっていく物語。”綿矢さんワールド”全開なその物語に、綿矢さんの作品を読む喜びを再認識させてくれた、そんな作品でした。
2020/11/07
hit4papa
中学生からの想い人 イチ。同期入社でアツく交際を迫ってくる男 ニ。イチとニを脳内で二股かける主人公の日々が描かれた作品です。オタク女子が妄想と現実の狭間にあって、突拍子もない行動をとるわけですが、このこじれっぷりが実に楽しい。あばたもえくぼ V.S.坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。惚れた男と惚れられた男、それぞれに対するキモチのゆらめきの残念さ加減が絶妙です。登場人物たちが、イイ女でも、イイ男でもなさそげな所が哀愁を誘うわけですね。なお、収録されている「仲良くしようか」は観念的な青臭さが好みに合いませんでした。
2017/12/28
感想・レビューをもっと見る