婚礼、葬礼、その他 (文春文庫 つ 21-1)
婚礼、葬礼、その他 (文春文庫 つ 21-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
2つの中編を収録。表題作の「婚礼、葬礼、その他」は、タイトルがパッとしないけれど、小説としての完成度は高いし、この作家らしい個性にも溢れている。日頃は、ほとんど無意識のうちに都市生活を営んでいる主人公のヨシノ(我々も)だが、こと冠婚葬祭となると、俄かに旧態依然とした村落共同体的な因習に囲まれることになる。ヨシノという、ちょっと古風な名前もそうしたことを反映しているのだろう。また、後半の「冷たい十字路」は一転して、共同体の紐帯を喪った都市生活の孤独を、1つの事故を通して、これも実に巧みに描きだしてみせた。
2013/06/29
新地学@児童書病発動中
津村さんの初期の2つの中編。表題作は結婚式と葬式の両方に出席する羽目になった女性の話。もう一つの「冷たい十字路」は学校の近くにある危険な十字路をめぐる人々の想いを描く。2編とも地に足の着いた感じがとても良い。「婚礼、葬礼、その他」は主人公の女性が空腹に悩まされる場面で笑ってしまった。人間は健康だったら、どんな時でもお腹が空くのだ。空腹になることは、苦しいことや悲しいことがあっても、この世で生きていくことにつながるのだと思う。「冷たい十字路」はさまざま立場の人々の内面の描き分けが、恐ろしく巧い。
2016/06/07
buchipanda3
中編2本。独特な語り口がいい感じでクセになる。表題作は友人の婚礼から始まり、次々と起こる出来事に唖然となりながらも、その展開に妙なおかしみを覚えて読むのがやめられなかった。ヨシノさんの本音まる出しの心の声に思わず共感。一見するとコミカルな寸劇だが、人間って面倒くさいものというシニカルな面が垣間見える。でも否定ではなく、むしろだからこそ人間と言われている気がした。「冷たい十字路」は、自転車事故を巡る群像心理劇。当事者以外の独善的な視点が積み上がり、気が付けば何とも言いようのない不穏な空気感に包まれていた。
2020/06/24
めしいらず
表題作よりも併録の「冷たい十字路」が良かった。時間に急かされ、何となく殺気立った雰囲気ただよう毎日。誰もが思うように運ばぬ物事に苛立ちを募らせている。捌け口を探すそのネガティブな感情は、ふとした刹那に容易く発露してしまう。ぶつけたその感情は、人にたちまち伝播する。そして連鎖していく。誰もが自分さえ良ければいいと思っている。あの日自分を苛んだ他人に不幸が訪れるのを、心のどこかで待っている。私はこの殺伐とした現実の空気に萎れ、同時に自分をその輪の中に見つけてしまう。ひたすらに辛いけれど、目を逸らせない物語。
2015/09/24
なゆ
ああ~、ヨシノったらなんて人が良いんだ…と思わずにいられない。旅行をキャンセルして友人の結婚式のスピーチ&二次会幹事を引き受ける、これはワカル。が、その当日その直前に、上司の父親の通夜に召集されるとは。〝呼ぶことはできなくても、頻繁に呼ばれる人生〟そんな自分の運命を呪いながら、空腹をかかえて奔走するヨシノの一日がちょっぴりコミカルに描かれている。通夜の会場での人間関係もてんやわんやなら、結婚式の方もてんやわんや。ヨシノ、ほんとにお疲れさん、と言ってあげたい。もう一篇の「冷たい十字路」は、ヒンヤリした話だ。
2014/11/16
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